おやぢの部屋2
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Beethoven's Salon Symphonies
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Van Swieten Society
Bart von Oort(Fp), Heleen Hulst(Vn)
Job ter Haar(Vc), Marion Moonen(Fl)
Bernadette Verhagen(Va)
QUINTONE/Q14002




以前こちらでベートーヴェンの交響曲第3番をピアノ四重奏(Pf, Vn, Va, Vc)にアレンジしたものをご紹介しました。それは、おそらくフランツ・クレメントという人が編曲を行ったと思われるものだったのですが、その時に「弟子のフェルディナント・リースの編曲もある」とも書いておきました。その「リース版」が新譜としてリリースされてしまいました。物好きな人はどこにでもいるものなんですね。
今回のCDでは、オランダのピリオド楽器の集団、「ファン・スヴィーテン・ソサエティ」によって演奏されている、というのが最大の特徴でしょう。ですからもちろん使われている楽器は、「ピアノ」ではなく「フォルテピアノ」です。さらに、以前のCDでは「3番」1曲しか入っていなかったものが、ここでは「5番」も入っていますよ。こちらの編曲はベートーヴェンと同時代の作曲家、ヨハン・ネポムク・フンメルによるものです。ただ、編成は同じ四重奏ですが、ヴィオラの代わりにフルートが入っています。
「3番」の編曲は、クレメントとリースとではかなりの違いがありました。おそらく、それぞれの得意な楽器の違いが現れたことなのでしょうが、クレメントに比べるとリースの編曲ではピアノの活躍の度合いが高くなっているように感じられます。例の第4楽章のフルートの大ソロも、ヴァイオリンではなくピアノになっていますし。それを受けて、今回のフォルテピアノの演奏家、バルト・ファン・オールトはかなりハイテンションな音楽の作り方によって、とても雄弁な「主張」を行っています。ですから全体のアンサンブルも、アルバム・タイトルの「サロン・シンフォニー」などというようなちょっと生ぬるいテイストとは無縁の、まさにベートーヴェンが込めた思いがこんなチープな編成にもかかわらずビシビシ伝わってくるというものに仕上がっているのです。
例えば第2楽章の「葬送行進曲」では、冒頭はクレメント版と同じピアノパートのソロで始まるのですが、そこで本来は低弦が入れる印象的な前打音が、ここでのフォルテピアノでは恐ろしいまでの存在感を持って迫ってくるのです。この楽器のちょっと鄙びた音色が、弦楽器のガット弦の響きと相まって、独特な音世界を展開していることも見逃せません。
前のCDの時に指摘した第1楽章の544小節目の2つ目の音は、ここでもフラットが付けられていました。今回のピリオド楽器の響きの中でこれを聴くと、この時代の様式の中では、こちらの方が正しいのではないか、というような気がしてきます。ここをナチュラルにすると、確かに現代人の耳には自然に感じられるのでしょうが、それはあくまで19世紀後半から20世紀にかけての和声感、もしかしたら、ここをフラットだとしたブライトコプフの新版では、そこまで考慮されていたのかもしれませんね。
カップリングの「5番」でのフンメルの編曲は、オリジナルを忠実になぞったリースとはちょっと違う立場からの、フンメル独自の改変があちこちで見られます。ですから、時折オリジナルとは異なったリズムや、全く聴きなれない音型が登場してハッとさせられます。これもやはり、単なる「サロン風」のリダクションというだけにはとどまらない、確かな作曲家の主張が感じられる編曲です。
その中で、ピアノ(フォルテピアノ)、フルート、ヴァイオリン、チェロという楽器編成は、唯一の管楽器であるフルートの存在によって、本来ならかなりの緊張感を与えてくれるはずのものに仕上がっています。このフルートは、元々のフルートのパートには全くこだわらない、かなり自由な使われ方をしていますからね。ところが、これを演奏しているマリオン・モーネンという人が、いくらピリオド楽器でもそれはないだろう、というぐらいのいい加減なピッチのために、そんな編曲者の目論見が台無しになっています。

CD Artwork © Quintone Records
by jurassic_oyaji | 2015-08-16 20:38 | 室内楽 | Comments(0)