おやぢの部屋2
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The Lost Paladise
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Arvo Pärt
Robert Wilson
Günter Atteln(Dir)
ACCENTUS MUSIC/ACC20321DVD(DVD)




アルヴォ・ペルトの生誕80年記念アイテムは、このところ怒涛のようにリリースされています。とは言っても、中には前回の「ヨハネ受難曲」のように単にそんな風潮に便乗しただけのお手軽な抱き合わせリイシューもありますが、今回の映像は正真正銘2015年に制作されたことが証明されていますのでご安心ください。
ここで描かれているのは、まさに「最新」のペルトの姿でした。メインとなるのは2015年5月12日に行われた新作「アダム受難曲」の上演の模様です。と言っても、厳密にはこれは新作ではなく、今まであった「アダムの嘆き」と「タブラ・ラサ」、そして「ミゼレーレ」という3つの旧作に、新たに序曲として「セクエンツィア」という、これはこのために作られたものを加えて一つの作品にしたものなのです。そして、それを「舞台上演」という形にしたところが、一つの注目点でしょう。つまり、演奏会場の客席の後ろでオーケストラと合唱団が演奏を行い、それに合わせて正面のステージでアクターやダンサーが動く、というものです。さらに、照明もかなり力が入っていて、そこでの「光」が音楽とシンクロするさまは、ペルトを聴く時の新しい形となるかもしれません。その会場は、エストニアのタリンにある「ノブレスナー・ファウンドリー」という場所で、かつてソ連時代に潜水艦工場だったところです。ペルトのオーガニックな音楽は、きちんとしたコンサートホールではなく、このような「廃物利用」の方が似合います。
この上演の模様は、このレーベルからやはりDVDやBDになって10月末にリリースされる予定ですから、ご覧になってみてください。そして、その上演のいわば「メイキング」として作られたのが、このドキュメンタリーです。こちらも同じく10月末にリリース予定なのですが、それに先立ってNHK-BSで放送されてしまいました。ですから、まるで代理店から早めにサンプルをいただいた、みたいなノリで見てみることにしましょう。ただ、BSはもちろんHDの画像なのですが、パッケージとしてはBDが販売される予定がなくDVDだけのようですので、ご注意ください。
この上演で演出を担当したロバート・ウィルソンが、ペルトとともにサブタイトルにクレジットされています。彼は、1980年代にペルトの音楽と出合い、その特別さに深く感銘を受けたと言います。制作発表の記者会見のシーンでは、いわば「宗教曲」であるこの作品の「宗教」をどのように舞台に反映させるのか、という質問に対して、「宗教は政治と同じく人と人を引き裂くものだから、それを舞台に持ち込むつもりは毛頭ない」と言い切っています。これは、おそらくペルトの作品に「宗教性」を求める人にとっては、ちょっと物足りないと感じるのかもしれません。しかし、この立場を全面的に支持しているのが、ここで合唱とオーケストラの指揮を担当しているトヌ・カリユステです。「彼はテキストではなく、音楽そのものを理解しようとしている」と。
ここでは、そのほかに多くの人たちがコメントを寄せていますが、カリユステとともにペルトの多くの作品に関与してきたポール・ヒリアーの場合は、カリユステとはちょっと異なるスタンスであることもはっきり分かるのが興味深いところです。というか、ヒリアーは本当の意味でペルトの音楽やその技法を理解しているのか、ちょっと疑問を持ってしまいました。
エストニアから、場面がいきなり東京に変わったのには驚きました。これは2014年に「高松宮殿下記念世界文化賞」受賞のために来日した時のショットでした。画面で見る東京の風景のなんと醜いことでしょう。それ以上に醜かったのは、授賞式でメダルを授与する人のなんとも尊大な態度。その仁王様のように大股を開いたいかにも「平民」を見下したような振る舞いも、しかし、ペルトは優しい心で許したのでしょう。そのまなざしは、次のとある神社でのシーンで幼稚園児と戯れる時のものと同じでした。

DVD Artwork © ACCENTUS Music GmbH
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by jurassic_oyaji | 2015-09-25 20:48 | 現代音楽 | Comments(0)