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MOZART/ Les Mystères d'Isis
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Chantal Santon-Jeffery(Pamina), Marie Lenormand(Mona)
Renata Pokupic(Myrrène), Sébastien Droy(Isménor)
Tassis Christoyannis(Bochoris), Jean Teitgen(Zarastro)
Diago Fasolis/
Flemish Radio Choir, Le Concert Spirituel
GLOSSA/GCD 921630




現在のパリのオペラ座(ガルニエ宮)の前身である「オペラ」が、1801年にモーツァルトの「魔笛」を上演しました。しかし、そもそも「魔笛」はドイツ語のテキストをセリフと歌で綴るという「ジンクシュピール」のスタイルで作られたものです。フランスでも同じスタイルで作られた「オペラ・コミック」というジャンルはありましたが、それは格式の高い「オペラ」では決して上演されることのないものだったのです。ですから、「魔笛」を上演するためには、テキストはもちろんフランス語に変える必要はありますし、さらにセリフの部分をレシタティーヴォに直して、「グランド・オペラ」のスタイルに改めなければいけなかったのです。
そこで、フランス語による台本はエティエンヌ・モレル・ドゥ・シェドヴィルが担当、レシタティーヴォを作ったりする音楽的な面はルートヴィヒ・ヴェンツェル・ラハニトが引き受けるという布陣で「改訂」を行うことになりました。しかし、このラハニトの仕事は、そんなただの「改訂」の範疇を大幅に逸脱した、とんでもないものに仕上がることになるのです。
1746年にボヘミアに生まれ、最初はホルン奏者、後に作曲家となってパリを中心に活躍するようになるラハニトは、作曲家というよりは、様々な作曲家の作品を集めて新しい作品として構成する「パスティーシュ」の作り手として有名な人だったようです。今でいえば、新垣隆のような感じでしょうか(ちょっと違う?)。そもそも、タイトルを「魔笛」ではなく「イシスの神秘」とした時点で、何か胡散臭いものが感じられるはずです。生臭いというか(それは「イワシの神秘」)。登場人物の名前も、オリジナルと同じなのはパミーナとザラストロだけ、タミーノはイスメノール、そして夜の女王はミレーヌ、パパゲーノはボッコリス(この2人の表記が、代理店が作った帯では間違っています)、パパゲーナはモナに変わっています。ですから、それぞれの設定も微妙に変わり、「対」として登場していたまるで小鳥の化身のようだったパパゲーノとパパゲーナも、ごく普通の牧童と侍女になっています。
とりあえず序曲はまっとうに始まります。しかし、「3つのアコード」の少し前になんだかちょっと変わっているような気がしたのも束の間、その「アコード」がなんとも間抜けな音型に変わっていました。そして幕開けは、なんとザラストロの登場です。まずは全く「魔笛」らしくないレシタティーヴォ・アッコンパニャートで、グランド・オペラ版「魔笛」、いや、「イシスの神秘」の物語が始まることになります。
オリジナルをそのまま使った部分は、おそらく半分もないのではないでしょうか。まず肩透かしを食うのが、夜の女王だったミレーヌが歌い始めたアリアが、あの有名なコロラトゥーラ満載の曲ではなく、なんと「ドン・ジョヴァンニ」の中のドンナ・アンナのアリアだったこと。もう少しすると、同じ作品の「シャンパンのアリア」が、三重唱で歌われるのですから、大笑いです。これは、どうやら「オペラ」にはこの難しいアリアを歌える人がいなかったための措置のようですね。ただ、もう1曲の少しやさしい夜の女王のアリアは、今度はパミーナが歌うようになっていましたよ。
他の作品からの転用はまだまだあります。「ティトの慈悲」のヴィッテリアのロンド「Non piú difiori」などという地味な曲もミレーヌのアリアに変わっていますし、ボッコリスとモナのデュエットでは「フィガロの結婚」からの伯爵のナンバーが使われています。
最後はミレーヌもザラストロに許されるという幕切れ、そこで流れているのはオリジナルと同じ合唱でした。最初と最後だけは同じものを使ったというのが、ラハニトのモーツァルトに対するせめてものリスペクトだったなんて、悲しすぎます。そんなものでも、全部で6シーズン、トータルで128回も上演されたんですって。

CD Artwork © Note 1 Music GmbH
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by jurassic_oyaji | 2015-10-09 20:21 | オペラ | Comments(0)