おやぢの部屋2
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TAKEMITSU/And Then I Knew 'Twas Wind
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The Museaux Trio
Sydney Carlson(Fl)
Denise Fujikawa(Hp)
Brian Quincey(Va)
ALBANY/TROY1581




武満徹が1992年に作った「そして、それが風であることを知った」というフルート、ハープ、ヴィオラのための曲と、その元ネタであるドビュッシーの同じ楽器編成の「ソナタ」をカップリングしたアルバムは、いったい今までにどのぐらい作られたことでしょう。今回、そこに新たに参入したのが、「The Museau Trio」という、2011年に結成されたばかりの新しいグループです。メンバーは、かつてヒューストン・グランド・オペラのオーケストラの団員だったフルートのシドニー・カールソン、かつてポートランド・オペラのオーケストラの団員だったハープのデニス・フジカワ、そして、フェニックス交響楽団、サクラメント交響楽団、サンフランシスコ交響楽団を経て、1997年からオレゴン交響楽団の団員であるヴィオラのブライアン・クインシーの3人です。
このグループの名前は、このようなフランス風のネーミングになっています。最初、それこそフランス語として「ミュゾー・トリオ」と読むのだと思ったら、なんとこれはニホンゴだというのですから、驚いてしまいます。「Museaux」は「ムソー」と読ませて、「苔寺」として有名な西芳寺の庭園などを設計したことで知られる鎌倉・室町時代の禅僧、夢窓礎石を意味するのだそうです。そういえば、武満にも「夢窓」という1985年に作られたオーケストラ作品がありましたね。その作品の英語表記は「Dream/Window」、ですから、「Museaux」にも「夢」と「窓」という意味までもが込められているのでしょう。かなり苦しいこじつけ、それならもっとわかりやすく「Musoh」ぐらいにしておけばいいのに。
まあ、気持ちだけはしっかり汲ませていただくとして、まずその武満のタイトル曲を聴いてみると、フルートのとても澄んだ音色に魅了されてしまいます。それは、まさに「禅寺」とか「水墨画」からイメージされそうなモノクロームの世界へと誘い込まれるようなフルートでした。よくある勘違いは、このパートに日本の楽器、尺八に似せた音色と奏法を期待するというやり方ですが、それはフルートと尺八の双方に失礼なこと、このような、あくまで西洋音楽のアプローチで武満の世界を表現する方がどれほど彼の本質に迫れることでしょう。
続くドビュッシーの「トリオ」にも、カールソンは同じようなクリアな音色と抑揚の少ないエクスプレッションで挑んでいます。それは確かに武満とのつながりをもろに感じられるような表現には仕上がってはいるのですが、ドビュッシーとしてはもう少し「艶」のようなものが欲しい気がしないでもありません。
これだけではアルバムとしては時間が短いので、もう1曲のカップリングが用意されています。それが、彼らが1970年生まれのアメリカの作曲家、カリム・アル=ザンドに委嘱した「Studies in Nature」という作品です。これは、19世紀末のドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルが1904年に出版した「Kunstformen der Natur」(英語訳が「Art Forms in Nature」、日本では「生物の驚異的な形」というタイトルで出版されています)という、様々な珍しい生物の100枚の彩色画を集めた画集にインスパイアされて作られたものです。これらのイラストには、単なる生物の標本画を超えた、芸術としての完成度が見られます。この本の中から選ばれたのが、「ウミユリ」と「放散虫」と「クラゲ」、このアルバムのジャケットには、その「放散虫」が使われています。でも、ちょっと気持ち悪いですね。

これは、武満やドビュッシーとはうって変わって、具体的なイメージがはっきり伝わってくる、そのままこれらのイラストのバックに流してもいいような分かりやすい作品です。フルートも心なしかうきうきと歌っているようですし、何よりもヴィオラのハイテンションぶりがとてもよく伝わってきます。これは、日本の禅僧とは無縁の世界、正直、一度聴いたらそれっきりというような、どうでもいい作品ですが。

CD Artwork © Albany Records
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by jurassic_oyaji | 2015-11-13 21:56 | フルート | Comments(0)