おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/Variations on Folk Songs
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Patrick Gallois(Fl)
Maria Prinz(Pf)
NAXOS/8.573337




もはやすっかりNaxosの看板となったパトリック・ガロワ、最近では特定のオーケストラの指揮者というポストもなくなったし、サッカー選手に転向も出来ず(それは「ハットトリック」)、フルーティストとしてそのユニークなキャラクターを存分に披露してくれているのではないでしょうか。今回も、到底ほかのフルーティストではなしえないようなヘンタイなアルバムが出来上がりました。
ここでガロワが取り上げたのは、ベートーヴェンの作品105と作品107という正式な作品番号が付けられている、「民謡による変奏曲集」です。こんな作品、おそらく実際に聴いたことのある人などほとんどいないのではないでしょうか。余談ですが、悪名高いNMLの表記では、これが「国歌による変奏曲」となっていましたね。
作品番号が付いているということは、ちゃんと出版されたということですが、1819年にイギリスで部分的に出版された時のタイトルが「Twelve National Airs with Variations for the Piano and an accompaniment for the Flute」でしたから、「National Air」に反応して「国歌」と訳したのかもしれません。でも例えば「庭の千草」などがテーマとして使われているのは聴いてみればすぐにわかりますから、これは国歌ではないと気づきそうなものです。なんともいい加減な日本のNMLのスタッフの仕事ぶりです。
参考までに、その後きちんと作品番号を付けて出版された時のタイトルは作品105が「ピアノ・ソロ、もしくは任意のフルートかヴァイオリンを伴う6つの平易な変奏曲」ですし、作品107が「ピアノと任意のフルートかヴァイオリンを伴うロシア、スコットランド、チロルのテーマによる10の変奏曲」(いずれもフランス語)というものでしたから、「民謡」という単語すら入ってはいなかったのですけどね。
これらの作品は、スコットランドで「芸術産業振興理事会」の職員をしていて、自身もかなりオタクなアマチュアの音楽家だったジョージ・トムソンという人の依頼によって作られました。彼の仕事は出版された民謡の楽譜を収集することでしたが、それが昂じてついに当時ウィーンで活躍していた大作曲家たちに民謡の主題を用いた曲を作らせることを始めたのです。最初はプレイエル、そして彼の師であり、イギリスでのライバルでもあったハイドンにそのような委嘱を行いますが、さらにベートーヴェンにも同様の仕事を依頼します。しかし、そのオファーは金額的に必ずしもベートーヴェンの満足できる条件ではなく、さらに、あくまでアマチュア向けのやさしい作品をトムソンが求めても、ベートーヴェンは断固として応じなかったということで、なかなか話は進まなかったようですね。結局出来上がったのはこの2つの曲集だけでした。
そのような、あくまでフルートはピアノの「付け足し」という位置づけのこれらの作品を演奏する時に、ガロワは大幅に手を入れて「ピアノ伴奏によるフルート・ソロ」という形の変奏曲に作り替えました。例えば、オリジナルではピアノが変奏を弾く中でフルートはちょっとした間の手を入れる、といったような部分でも、フルートに堂々たるテーマを演奏させて、そのバックでピアノがチマチマ変奏を行う、というような改変ですね。
そして、最大の改変は、この、言ってみれば「金のため」だけに作った(それは決して悪いことではありませんが)イージーとも思われる作品に、ガロワがとてつもなく深みのある「意味」を込めて演奏しているという点です。こんな曲でも以前にヴァイオリンとピアノのバージョンで演奏されたものがあったので聴いてみましたが、その、まさに音符を忠実に再現しただけの演奏と比べると、その違いは歴然としています。おそらく、トムソンの苦情に応じていやいや作り変えたベートーヴェンの仕事に最初はあったはずの作曲家の意地のようなものを、ガロワは丹念に付け加えていたのでしょう。でも、さすがに「フィンガー・ビブラート」はちょっと余計だったような気がしますが。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.
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by jurassic_oyaji | 2015-11-18 00:05 | フルート | Comments(0)