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The Beatles
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2000年に、ビートルズがそれまでにリリースしたシングルのうちで、英米のヒットチャートで1位になった27曲(!)を集めたコンピレーションアルバムが、その名も「1」というタイトルでリリースされました。それは、2009年にこのバンドのすべてのアルバムがリマスタリングを施されてリリースされた時にも、同じようにリマスタリング盤としてリイシューされていました。まあ、その段階では、あくまでレコードをカッティングする際に用いられた2チャンネルのマスターテープからトランスファーしたデジタル・データを用いてリマスターを行うという、「ほんのちょっといい音にしてみました」というようなものだったはずです。ですから、それは入手してはいませんでした。
今年の11月の初めに、今回は、「1+」という名前で、同じ曲目のBDとDVDがリリースされました。映像がメインの売り方をされていたので、全く興味はなかったのですが、ちゃんとCDだけのバージョンもあって、しかもそれは「リマスター」ではなく「リミックス」されたものだ、という情報が流れてきました。そういうことであれば、手に入れないわけにはいきません。
「リミックス」というのはクレジットカードではなく(それは「アメックス」)、オリジナルのマルチトラックのテープから、新たに2トラックにする作業(トラックダウン)をやり直すということですから、楽器やヴォーカルのバランスや定位までも変えることができるものなのです。もちろん、それをオリジナルからどの程度変えるかは、プロデューサーやアーティストのポリシー次第になるわけです。たとえば、先日のシュガーベイブの「ソングズ」の場合に、山下達郎はCDでは「リマスター盤」と「リミックス盤」の両方を作っていましたが、その「リミックス」は極力オリジナルに忠実に行っていましたね。
しかし、今回ビートルズの「1」の「リミックス」を行ったジャイルズ・マーティン(オリジナル録音のプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子)は、オリジナルにはこだわらない、かなり大胆なリミックスを行っているようでした。
そのあたりを比較するのに、本当は2000年版「1」があればいいのですが、確かに手元にあったはずのこのCDがどこを探しても見つかりません。仕方がないので、その元となったオリジナルアルバムや、シングルのみのものは「Past Masters」と比較することにしました。おそらく、それらと旧「1」との間には、決定的な違いはないはずでしょうから。

実は、この中の曲で、すでにリミックスが行われていたものがありました。それは、1999年にリリースされた「Yellow Submarine Songtrack」というアルバムです。ここでリミックスを担当したのはピーター・コビンという人です。これを聴いたときに、今までは右チャンネルだけに固まっていた「Nowhere Man」の冒頭のコーラスが3人の声が別々に広々と定位していたのに驚いたことは、今でも忘れません。このアルバムの中の3曲が、「1」の中にも入っていますから、まずはそれらでオリジナル→1999年リミックス→2015年リミックスという比較をしてみましょう。

♪Yellow Submarine

  • Original:リンゴのヴォーカルはRに定位、コーラスもRだが、最後のコーラスだけL。ドラムスはLに定位、BDは貧弱な音。アコギはL。SEの波の音とブラスバンドはCに定位。
  • 1999:リンゴはCに定位。ドラムスもC。BDの音が別物。アコギはC。SEの波の音はLとRの間を何度も往復。ブラスバンドはCに定位。間奏のSEで汽笛が入る。
  • 2015:ヴォーカル、ドラムスの定位は1999と同じ。アコギはL。SEの波の音は音場いっぱいに広がっている。ブラスバンドが行進(L→Rとパン)。汽笛は入らない。

♪Eleanor Rigby

  • Original:ポールのヴォーカルはRに定位。「All the lonely people」からダブルトラックでCに移動。Strは全楽器がCにピンポイントで定位。エンディングのLのジョンのコーラスの2回目にドロップアウト。
  • 1999:ポールのヴォーカルはCに定位。「All the lonely people」からダブルトラックになるが、音場は広がらない。VnI,VnIIはL、Va,VcはRに定位。ジョンのコーラスのドロップアウトはない。1回目をコピペか。
  • 2015:ポールのヴォーカルはCに定位。「All the lonely people」からダブルトラックになり、音場が広がる。VnI,VnII,Va,Vcの順に、LとRの間に均等に定位。やはり、ジョンのコーラスにドロップアウトはない。

♪All You Need Is Love

  • Original:イントロにE.Pfあり。最初のコーラスはLのみ。
  • 1999:イントロにE.Pfなし。コーラスはLとR。
  • 2015:イントロにE.Pfあり。コーラスはLとR。

その他の曲も、リミックスによってオリジナルに比べると明らかに音像がくっきりしたり歪がなくなったりしており、今まで聴いてきたものは何だったんだろうと思えるほどの素晴らしい音に生まれ変わっています。中でも、ライブ録音一発録りの「Get Back」では、イントロのLで聴こえるシンバルの盛大なひずみが全くなくなっていますし、やはりLに定位しているジョンのギターも別物のように輪郭がはっきりしています。これは、2003年にリリースされた「Let It Be...Naked」でもある程度の修復は行われていたのですが、今回はそれをはるかに上まわる成果を上げています。そして、今までさんざん非難されていた「The Long and Winding Road」でフィル・スペクターによって付け加えられたストリングスやコーラスの音の美しいこと。特にコーラスは、こんな素晴らしいものだったなんて今までは全く気づきませんでしたよ。
ストリングスに関しては、この中の唯一のジョージの曲「Something」のバックのストリングスが以前の無機質な音からふんわりとしたテイストが味わえるものに変わっているのに狂喜ものです。「You’re asking me will my love grow」でのピツィカートも、これを聴いて初めて弦楽器のピツィカートと認識出来たぐらいです。
今回、これだけ音が明瞭になったのは、オリジナルのトラックダウンの際の度重なるダビングによる歪がいかに大きかったか、ということを明らかにしてくれるものなのではないでしょうか。それが当時の技術の限界だったとしても、これだけのマスターテープの音を今まで聴くことが出来なかったのは、とても残念です。それと、当時は基本的にモノラルミックスがメインで、ステレオミックスは二次的なものというスタンスでしたから、単純に左右のトラックに楽器やヴォーカルを振り分けただけという、今聴くととても不自然な音場(「音場」という意識すらなかったのかもしれません)のものが中期までのものにはたくさんありました。それが、今回のリミックスではヴォーカルがセンターに定位するなど、当たり前の音場で聴けるような配慮が多く見られます。これは、現在のオーディオ環境としてはまさに待ち望まれていたことです。
今回のジャイルズの仕事が、ビートルズのすべてのアルバムのリミックスという一大プロジェクトのスタートだと思いたいものです。それは2006年に「Love」がリリースされた時にも願っていたことなのですが。

CD Artwork © Calderstone Productions Limited
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by jurassic_oyaji | 2015-11-27 20:23 | ポップス | Comments(0)