おやぢの部屋2
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PENDERECKI/A sea of dream breathe on me...
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Olga Pasichnyk(Sop)
Ewa Marciniec(Alt)
Jarosław Bręk(Bar)
Antoni Wit/
Warsaw Philharmonic Choir and Orchestra
NAXOS/8.573062




ペンデレツキは、オーケストラや室内楽のための作品の他にも、多くの声楽を伴う作品を作ってきました。ア・カペラの合唱曲もありますね。それらは、初期の作品「スターバト・マーテル」や「ルカ受難曲」のように、ほとんどがラテン語をテキストに用いているか、と思えるものでしたが、ごく最近になってそれ以外の言語でも曲を作るようになっています。そのターニング・ポイントと言えるのが、2005年に作られた「交響曲第8番」だったのでしょう。そこでは、ドイツ・ロマン派の詩人によるドイツ語によるテキストが使われていたのです。
おそらく、それは単にテキストの問題だけではなく、彼の音楽的な転換のポイントにもなっていたのではないでしょうか。それまでの、いわば「死語」であるラテン語で、ある意味日常生活からは超越していた世界にあったものが、日常の言葉を使うことによってその作品にある種の「具体性」が生じることは当然の成り行きです。実際、その「交響曲第8番」からは、例えばマーラーが持っていたようなまぎれもない直接的な感情が溢れ出ていました。それまでに信じられないほどの方向転換を行っていたこの作曲家は、晩年になってさらにその作風に対する舵を大きく切ったのです。
その流れに沿った新たな作品が、この、やはりオーケストラに独唱や合唱が加わった「夢の海は私に息吹を送った...」というタイトルの歌曲集です。ショパンの生誕200周年の記念行事のためにポーランドの国立フレデリック・ショパン協会の委嘱によって作られ、2011年の1月14日にワルシャワで初演されました。その時にはゲルギエフ指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィアが演奏を行っています。
今回のCDは、2012年10月に録音されたものです。もちろん、演奏は常連のヴィット指揮のワルシャワ・フィル、ソリストは初演の時とは全員入れ替わっていますが、合唱は初演と同じヘンリク・ヴォイナロフスキ指揮のワルシャワ・フィル合唱団です。
ここでペンデレツキが用いたテキストは、彼の母国語ポーランド語でした。ポーランドの詩人の作品が全部で22篇使われています。それが6曲、5曲、11曲がセットになって、3つの部分を形成しています。そうなると、音楽の中にも「8番」でのドイツ語とは別の、もっと「東ヨーロッパ」風の雰囲気が漂い始めます。いや、もはや「ヨーロッパ」も通り越した「東洋」までもが、その範疇には入っていることを見逃すことはできないはずです。確かに、ここにはハンガリーのバルトークや、さらには日本の武満、細川といった作曲家のエキスのようなものがふんだんに散らばっています。
第1部の冒頭曲が、まさにそんな「異国情緒」たっぷりのものでした。そこにあったのは武満の後期に見られる甘いフルート・ソロ、その武満や細川が得意とする雅楽のような倍音を持つ弦楽器、そして、バルトーク風のメロディ・ラインです。4曲目と5曲目でソプラノとバリトンのソロが入ってくると、そこにはまるでバルトークの「青ひげ」のような世界が広がってはいないでしょうか。
第2部になると、まるでウェーベルンのような静謐なサウンドの中に、無調的なソロが聴こえてきます。これも、今となっては何かノスタルジーを感じないわけにはいきません。このパートを締めくくる曲での合唱は、さらに強い郷愁をそそられるものでした。
第3部では、興味深いタイトルの「詩」が目に付きます。それは「レクイエム:ショパンのピアノ」という、ショパンへのオマージュが語られている4篇の詩です。もちろん、この作品全体の趣旨に沿ったテキストですが、音楽的にもショパンに対する回帰の情が反映されているのは間違いのないことでしょう。
ソリストも情感深い歌を聴かせてくれていますが、何よりも合唱の存在感が、この作品の魅力を作っています。最後にはなぜかラフマニノフの「晩祷」のような東方教会の響きが。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.
by jurassic_oyaji | 2015-12-05 21:44 | 現代音楽 | Comments(0)