おやぢの部屋2
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BACH/Mass in B minor
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Johon Eliot Gardiner/
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
SDG/SDG722




かつてガーディナーが手兵のモンテヴェルディ合唱団とイングリッシュ・バロック・ソロイスツを率いてバッハの「ロ短調」をDGのサブレーベルARCHIVへ録音したのは、1985年のことでした。それからちょうど30年後の2015年に、こちらはガーディナー自身のレーベルであるSDGで行った録音がリリースされました。
この30年というのは、レコード産業を取り巻く情勢が大きく変わった時期です。すでにCDは実用化されていましたが、今では次のメディアがそのCDを排斥しようと猛威をふるっていますし、DGのような大きなレーベルももはや自前での録音は行わないようになってしまいました。それはバッハの作品そのものに対する考え方にも大きな変化があった期間でもあります。この「ロ短調」に限ってみても、1954年に新バッハ全集として出版されていた楽譜が、2009年には全面的に改訂されています。そして、30年前には激しく吹き荒れていた「合唱は各パート一人ずつで演奏すべきだ」という声高な主張も、現在では単なる「ブーム」でしかなかったことがはっきりしています。
そんな動きの象徴的な出来事が、前回と今回との合唱の編成の変化です。85年には、そのジョシュア・リフキンの理不尽な主張をガーディナーは彼なりに咀嚼して何とか時流に遅れまいとしたのでしょうか、部分的に合唱の部分を「ソリストだけ」で演奏しています。もちろん、今回の録音では合唱の部分は全て「合唱」によって歌われていて、ソロの部分は合唱団のメンバーの中の8人が担当するという方法をとっています。
ガーディナーの演奏スタイルも、この30年間には変わってきていることも、この2種類の録音を比較すれば明確に分かります。DGの録音では、エンジニアの趣味、というか、レーベルとしてのサウンド・ポリシーだったのでしょうが、かなりソフトな音に仕上がっているのでなおさらその違いは際立つのでしょうが、なにかフレーズの角がとれて滑らかになっているような印象が与えられます。しかし、今回は録音自体がとても生々しい、演奏者の気迫のようなものがはっきり聴き取れる精緻なものですから、ガーディナーが奏者たちに伝えた思いがストレートに伝わってきます。具体的にはフレージングがより鋭角的になり、合唱でのテキストの扱いもより緊張感が高まったものとして聴こえてくるのではないでしょうか。「Credo」での「Crucifixus」の最後の5小節での超ピアニシモと、それに続く「Et resurrexit」とのダイナミックスの対比などにも圧倒されます。
使用している楽譜については、どちらの録音でも「ベーレンライター版」というクレジットが認められます。これは新バッハ全集を出版したものですが、当然、今回の録音ではその「新校訂版」が使われていますから、音符そのものが変わっているところもあります。その典型的なものが、「Gloria」の中のソプラノとテノールのデュエット「Domine Deus」です。新校訂版では、昔の楽譜では触れられていなかった資料(ドレスデンで演奏された際に改訂されたパート譜)も加味して、並んだ音符が不均等に記譜されているという注釈が明記されていますから、ここではそれに従った付点音符によるリズムで演奏されています。
基本的なテンポなどはほとんど前回と同じですが、唯一「Benedictus」だけは非常にゆったりとしたテンポに変わっています。このあたりが、ガーディナーが年を重ねたことによる表現の幅の拡大ということになるのでしょうか。ここで歌っているニック・プリッチャードというテノールは、まさしく理想的なピリオド・テノールなのではないでしょうか。あくまでピュアな声から醸し出されるパッションには、心を打たれます。
ただ、そのほかのソリストが、ハンナ・モリソンは別格ですが、ちょっと主体性を欠く拙い歌い方に終始しているのが、この録音の決して小さくはない疵でしょうか。「Agnus Dei」を歌っているメグ・ブラグルあたりにも、失望させられます。

CD Artwork © Monteverdi Productions Ltd
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by jurassic_oyaji | 2015-12-09 21:12 | 合唱 | Comments(0)