おやぢの部屋2
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Time and its Passing
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Ralph Allwood/
Rodolfus Choir
SIGNUM/SIGCD445




合唱指揮者のラルフ・オールウッドが、彼が長らく勤務していたイートン・カレッジの学生などを集めて1983年に作ったイギリスの合唱団「ルドルフス・クワイア」の最新アルバムです。たしか2009年頃に録音されたバッハの「ロ短調」をこの合唱団で聴いてがっかりしたことがあったのですが、今回はどうでしょう。
この合唱団は在籍の年齢制限がありますから、学生の合唱団のように毎年メンバーが少しずつ変わります。今回のメンバー表と、その2009年の時のメンバーとを見比べてみたら、なんと、全員入れ替わっていましたよ。ということは、「ロ短調」の時とは全く別の合唱団ということになります。それだったら、もしかしたらちゃんとした演奏が聴けるかもしれません。しかも、「ロ短調」は良く見たら放送用のライブ音源だったようで、そんなハンディもそのまま録音に反映されていましたからね。
確かに、今回のアルバムでは、彼らの持ち味であった美しいハーモニーが生かされるような選曲でしたから、総じてなかなか楽しめました。とは言っても、どうやらこの合唱団、やはりバッハのメリスマのような精密作業や、基本的にポリフォニーはあまり得意ではないことも分かりましたから、まあ身の丈に合ったレパートリーで勝負をすればいいのでしょうか。クリスマスの歌とか。
このアルバムには、「時と、その移ろい」とでも言うようなタイトルが付けられています。なかなか意味の深そうなタイトルですが、まずは16世紀から21世紀の現代までをカバーする「時」のスパンが一つのファクターとなっているようです。そして、その「時」がもたらす「永遠性」のようなものがテーマになっている作品が集められているというあたりが、コンセプトとなっているのでしょう。
そんなアルバムの劈頭を飾るのが、「時」を超えた作風で一世を風靡したジョン・タヴナーだというのも、何か象徴的な気がします。ここでの合唱団は、かつて見せていたような子供っぽい発声からは見事に脱皮していて、まるで深淵からのうめき声のようなひそやかさで「Oh, Do Not Move」という1990年に作られた音楽を始めています。
そこから、3世紀を飛び越えて聴こえてきたのは、トーマス・タリスの聖歌「Thou Wast, O God, and Thou Wast Blest」です。この穏やかなテーマは、やがて20世紀にヴォーン・ウィリアムズによって「タリスの主題による幻想曲」という管弦楽作品の中に使われ、やはり「時」を超えたつながりが生まれることになるのです。この合唱団は、そんなほとんど伝承曲とも言える作品を、いともイージーに歌っているような印象を受けてしまいます。
しかし、次の、まさに「現代」の作曲家ガブリエル・ジャクソンの「To Morning」になると、そんなちょっと無気力だった合唱団がにわかに豹変します。まさに水を得た魚のように、積極的に音楽を作るようになっていたのです。おそらく、このあたり、伝統的な書法でありながら、ちょっと現代的なテイストを加えたようなものが、彼らが最もシンパシーをもって歌えるようなジャンルだったのではないでしょうか。1962年生まれのジャクソンよりさらに若いトーマス・レックネル(b.1989)の「Ozymandias」やベンジャミン・ロワース(b.1992)の「The Evening Watch」といった、これが世界初録音となる2つの作品で見せる果敢な表現には、確かに何か光るものが感じられます。
ただ、エストニアのペルトや、ハンガリーのコダーイといった「外国人」では、何か上っ面しかなぞっていないようなもどかしさを感じないわけにはいきません。特に、英語で歌われているコダーイの「Esti dal」は、まるで蒸留水のようなテイストで、ハンガリーの「心」までを表現するほどの域には達してはいません。
そして、やはり「外国人」であるヨハン・セバスティアン・バッハでも、因縁の「ロ短調」からの「Et incarnatus est」は、ただのヒーリング・ピースに成り下がっています。

CD Artwork © Signum Records
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by jurassic_oyaji | 2016-01-12 21:13 | 合唱 | Comments(0)