おやぢの部屋2
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CAGE/Complete Works for Flute・1
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Katrin Zenz, Uwe Grodd(Fl)
Maxim Mankovski(Perc)
Ludovic Frochot, Chara Iacovidou(Pf)
NAXOS/8.559773




以前こちらで「ギリシャのフルート音楽」という珍しいものを発表していた、ドイツ生まれのギリシャ在住のフルーティスト、カトリン・ツェンツが、今度は「ジョン・ケージのフルート作品全集」という、とんでもないものを作ってしまいました。まあ「全集」とは言ってもCD2枚だけでおさまるぐらいのものですから、量としては大したことはありませんが、それでも今までにはそういうものは存在していなかったということで、これが「世界初」の企画ということになりました。もちろん、リリースはそんな「世界初」が大好きなレーベルのNAXOSです。
ジョン・ケージの場合は、「作品」そのものが「不確定」、つまり、彼の場合、あるタイトルの「作品」があったとしても、そもそもどういう楽器編成なのか特定されておらず、しかもそれを演奏するための狭義の「楽譜」が存在していないことがありますから、なにをもって「全集」と言うかが問題になってきます。ですから、ここで「世界初のフルート作品全集」と、ライナーの中でこのアルバムのプロデューサーでもあるフルーティストのツェンツがいかに声高に訴えようが、それはほとんど意味のないことになってしまうのです。
とは言っても、やはり「全集」というだけのことはあって、ここにはケージがそのような従来の「音楽」とはかなり異なる様相のものを作り出す以前の、いわば習作のようなものまで網羅されているのは、ありがたいものです。それが、彼がまだ20代だったころの1935年に作られた「フルート二重奏のための3つの小品」です。ここで演奏しているのはツェンツと、NAXOSレーベルでは古典的な作品の多くの録音でおなじみのウーヴェ・グロットです。これは、それぞれきちんとイタリア語の表情記号が付けられており、楽譜もきちんとした五線紙に書かれている、まさに西洋音楽の伝統にのっとった「確定」された音楽です。とても素朴な無調のフレーズを、お互い時間をずらしてほとんどカノンのように演奏するという、いたって「古典的」な書法の作品です。ケージにもこんな時代があったのだな、と思わせられるだけの、逆の意味でのインパクトは確実にあるのではないでしょうか。
そして、彼にとっては「普通の」音楽として、あと3曲収められています。最も有名な「竜安寺」は、まさにその京都の石庭にインスパイアされて作られたもの、元々はオーボエ奏者からの委嘱でしたが、ここではフルートと打楽器で演奏されています。まるで木魚のような打楽器に乗って、ほとんど尺八かと思えるようなフルート・ソロが、「禅」の世界観を表現しています。
1987年に作られた「TWO」は、そのような演奏者の人数をそのまま「数字」で表した一連の作品群の、最初のものです。これは「1」から「108」(さらにソロ楽器が加わった「110」も)まであって、最後のものは18型の弦楽器に木管楽器と打楽器が加わるという大編成のもの。この「2」では、一応ピアノとフルートという楽器が指定されています。ピアノのパートは2段譜表に記されたコードがいくつか書いてありますが、フルートは3つのピッチの単音しか要求されていません。それぞれのパートは互いに「無関係に」演奏しろ、という指定があり、ここでもやはり「禅」に通じる静謐な世界が広がります。
1984年に作られて、1987年に改訂された「Music for」もやはりその「for」のあとに演奏家の人数を続ける、タイトルからして「不確定」な曲です。ここでは、本来は17のパートが必要な作品をツェンツ自身がピアノとフルートのために編曲して「Music
for Two」というタイトルで演奏してています。冒頭からピアノの共鳴音が聴こえたり、フルートはいくつもの音を同時に出す「重音奏法」を行ったりと、サウンド的にはかなり刺激的なものが与えられます。

そんな、フルートを通して体験するケージの形而上の世界、第2集も楽しみです。

CD Artwork © Nacos Rights US, Inc.
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by jurassic_oyaji | 2016-01-14 23:21 | フルート | Comments(0)