おやぢの部屋2
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DVOŘÁK/Stabat Mater
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Erin Wall(Sop), 藤村実穂子(MS)
Christian Elsner(Ten), Liang Li(Bas)
Mariss Jansons/
Chor des Bayerischen Rundfunks(by Michael Gläser)
Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks
BR/900142




ドヴォルジャークはなんたって交響曲の作曲家として有名ですから、一応何曲かの宗教曲は作っていても、その存在すら知らない人はたくさんいます。「レクイエム」だってありますが、それが親しみを込めて「ドボレク」とお酒みたいな名前(それは「ドブロク」)で呼ばれることは決してありません。しかし、彼の若いころ、やっと作曲家として認められたあたりに作られた「スターバト・マーテル」は、聴かずに済ますにはちょっともったいない曲なのではないでしょうか。何よりも、この曲には「3人の子供を亡くした悲しみが、この曲を作らせた」という、日本人が好きそうな「とっかかり」もありますからね。
しかし、そのように世間一般に流布されている俗説に対しては、少し慎重に向き合うことが必要かもしれないと、このCDのライナーノーツ(by Vera Baur)を読んだ人は感じるかもしれません。
確かに、ドヴォルジャークは1875年の夏に、生まれてたった2日しかたっていない長女を失いますが、それは「スターバト・マーテル」を作る直接の動機ではなく、同じ年の11月に、プラハで行われたフランツ・クサヴァ・ヴィットという人の同名の曲の初演に、自らハルモニウムの伴奏で参加したことだ、と、そこには述べられています。それは、合唱と鍵盤楽器だけというシンプルな編成だったのですが、ドヴォルジャークはそのテキストの詩的な深みに心を動かされ、自分はもっと大規模なオーケストラの入ったものを作ろうと思ったのではないか、というのです。
そこで、彼は翌1876年の2月から5月にかけて、スケッチを作り上げますが、そこで他のものに興味が向いたためにこの仕事を一旦中断してしまいます。この時点では、その程度のモティベーションしかなかったのかもしれません。ところが、その翌年1877年の8月13日に、1歳の次女が「燐の溶液のようなもの」を誤って飲んで、亡くなってしまいます。さらにそれからわずか数週間後の9月8日には今度は3歳の長男が天然痘で亡くなります。
この、3人の子供を全て失ってしまった悲しみで、彼はもはや作曲をする気もなくなるほど落ち込んでしまいます。しかし、彼は果敢にも1年半前に中断した「スターバト・マーテル」のオーケストレーション作業を再開し、11月にはこの曲を完成させてしまうのです。それは、この作業を続けることによって彼の作曲家としてのアイデンティティを取り戻したいという欲求の表れだったのかもしれません。亡くなった子供たちは、父親が作曲家であることを遠いところから望んでいたのだ、と、彼には思えたのでしょうね。
そのような、決して湿っぽくはない、むしろ「前向き」な姿勢で作られた曲ですから、その音楽にはほとんど「暗さ」を感じることはありません。1曲目の「Stabat mater dolorosa」では、曲の始まりはロ短調、「嬰へ」の単音がオクターブで繰り返されたあと、半音階的に下降するとても暗い音型が現れますが、一瞬平行調であるニ長調の響きが出現して、そこではとても安らぐ雰囲気が漂います。合唱が入ってまたロ短調に戻るものの、それもしばらくして女声だけが冒頭のテキストに戻ると、そこでは何と「ロ長調」に変わってしまうのですからね。
全部で10の部分に分かれているそれぞれの曲も、合唱、ソロ、アンサンブルとバラエティに富む曲想が配されていて、楽しめます。まるでモーツァルトの「レクイエム」の「Tuba mirum」のようなバスのソロで始まる4曲目の「Fac, ut ardeat cor meum」では、そのバスに女声合唱が合いの手を入れて、なにか「美女と野獣」的な対比が強調されているみたいですし。また、8曲目の合唱だけのナンバー「Virgo virginum praeclara」からは、まるでシューマンのような爽やかなドイツ・ロマン派のテイストが感じられないでしょうか。
そして、10曲目の終曲の、なんという晴れ晴れしさ。最後近くで現れるア・カペラの合唱のかっこいいこと。曲全体がディミヌエンドでしめやかに終わるときに感じるのは、確かな「救い」なのではないでしょうか。名曲です。

CD Artwork © BRmedia Service GmbH
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by jurassic_oyaji | 2016-02-14 20:51 | 合唱 | Comments(0)