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武満徹・音楽創造への旅
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立花隆著
㈱文藝春秋刊
ISBN 978-4-16-390409-2




武満徹が65歳の生涯を終えたのは、1996年2月20日のことでした。もうあれから20年も経っていたんですね。そんな「祈念」の年にあたるということで、最近はこの作曲家関連のコンサートや出版物を見かけるようになっています。この本も、帯には「没後20年」とあったので、そんな趣旨のものだと思ったのですが、あとがきでは全く無関係な事実が明らかにされています。いずれにしても、「文學界」という月刊誌に6年に渡って連載されていたものが、18年後にやっと単行本化されたということです。
ある程度は武満の著書や関連の書籍は読み漁っていたと思っていたのに、ここにはそれこそ「よそのインタビューでは全く出てこない話」(あとがき)が続々と登場して、初めて知る事柄が満載だったのには驚きました。それを引き出すために著者が行った武満へのインタビューは、トータルでは100時間にも及んだというのですから、この著者ならではの物量戦にはいつものことながら圧倒されてしまいます。ですから、雑誌連載分をそのまま収録したこの本は、とんでもないボリュームを持つことになりました。厚さが4センチ、2段組み781ページのハードカバーは、まるで井上ひさしのあの長編小説「吉里吉里人」ほどの大きさですから、文庫化される時にはおそらく3巻程度になることは必至です。

何よりも圧倒的な情報量で、まるでドラマを見ているように克明に伝わってくるのが、武満が作曲家を目指し始めてから世に認められるまでの部分です。常々「独学で作曲法を習得」みたいな記述を見るにつけ、いったい具体的にはどのような「勉強」をしてきたのか知りたいと思っていたのですが、そのような好奇心はかなりのところまで満たされたような実感はあります。しかし、やはりたどりつくのは、そもそも「作曲」などという創造的な行為は、学んで習得できるものではないという、分かり切った真実です。必要なのは天賦の資質なのだ、天ぷらは塩なのだと。それにしても、「2つのレント」など初期の作品の楽譜がすでに紛失したり破棄されてしまっているのは、とても残念です。
ここでは、もちろん武満へのインタビューがメインにはなっていますが、それとともに他の人へのインタビューや、関連書籍からの引用も膨大なものです。中には、武満に関しては最後にほんの少し触れられるだけという回もあったりします。そのあたりの著者の目論見は明白で、彼は武満を芯にして、同時代の日本の「現代音楽」の歴史を、生々しく語ろうとしていたはずです。その多くの人に対するインタビューと膨大な資料によって見えてくるのは、とても視野の広いその頃の音楽を取り巻く社会全体の姿です。それは、当時の世界の音楽界とのつながりにまで及びます。いや、正確にはいかに当時は外国の情報が伝わっていなかったか、という事実を知らされるということなのですが。あのころは、メシアンでさえ日本では全く知られていなかったんですね。
そのような状況を語るときのバックグラウンドとして必要な、専門的な音楽や作曲に関する知識さえも、著者はきっちりと与えてくれています。それは、よくこんなところまでリサーチしたな、と驚かされるほどの、的確なレクチャーです。ただ、1ヵ所だけそんなディレッタントならではの事実誤認を指摘させていただくと、401ページの下段2行目の「『TACET』というのは、ケージの造語で」というのは誤りです。これは普通のオーケストラのパート譜などにも頻出する表記で、ケージはほとんどジョークのノリでここに用いていたのでしょうね。
ここに登場する作曲界、美術界、さらには文学界の個人名も、したがって膨大なものになっています。この著作は間違いなくこの時代の文化を語る上での貴重な資料になるはずですから、そのような人名の索引が設けられていたら、さらに価値の高いものになっていたのではないでしょうか。

Book Artwork © Bungeishunju Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2016-03-09 21:06 | 書籍 | Comments(0)