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実験工房
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園田高弘(Pf)ほか
NAXOS/NYNG-013




先日の立花隆の著作「武満徹・音楽創造への旅」の中では、武満の事実上のデビュー作品と言える「二つのレント」に関して、とても興味深い事実が明らかにされていました。
それは、
「いま出ている『二つのレント』は、友人の福島和夫が保存していたスケッチから復元したもので、オリジナルとはちょっと違うんです」(43ページ)

とか、
「(この曲のいろんなバージョンが)何十とあります。だけどいずれにしてもそのころ書いたものは、みんな無くなってしまったんです。かろうじてひとつだけ、福島の家のピアノの裏に捨ててあったものが残っていた」

といった武満自身の言葉を受けて、
「『二つのレント』の楽譜もいつのまにかなくなってしまった。今ある譜面は、福島和夫のところに残っていたスケッチから、武満が再現したもので、『リタニ』とタイトルが変えられている」(91ページ)
という立花の記述によって語られている事実です。


それは、1989年(資料によっては1990年)に作られ1990年にショット・ミュージックから出版されたその楽譜の冒頭に記されている
「この作品は、1950年に作曲された《二つのレント》―その原譜は紛失された― を、作曲家の記憶をたよりに再作曲されたものである」

というコメントからも裏付けられます。
となると、ここで一つの疑問が浮かびます。現在ではその「原譜が紛失された」とされる「二つのレント」の、間違いなく「紛失後」に録音されたものがいくつか存在しているのですが、それはいったいどんな楽譜を使って演奏されていたのでしょう。
その疑問は、1982年にその最初のものをFONTECに録音した藤井一興自身のこちらの話によって氷解します。彼は「福島和夫が保存していたスケッチ」をコピーしたものを使って録音していたのですね。さらに、この時点で武満はこの曲の存在も忘れていたのですから、そのコピーに対して改訂を行うことなどはあり得ません。付け加えれば、この曲の録音はその時に限って許可を与えた、と。
そして彼の没後の2000年の高橋アキ(EMI)と2006年の福間洸太朗(NAXOS)の録音などへと続くことになるのですが、リンクでの藤井の話にある通り、高橋は間違いなくこの楽譜を使って録音したのでしょうし、聴き比べた限りでは福間も同じものを使ったように思えます。
そんなことを調べている中で見つかったのが、この2013年にリリースされたCDです。これは、このレーベルの「NHK『現代の音楽』アーカイブシリーズ」の最後に「特別篇」としてリリースされたもので、メインはNHKでこの番組が始まった1957年に録音された園田高弘による音源なのですが、なんとその中に「二つのレント」の二曲目が収録されているのです。初演から7年しか経っていない頃なので、おそらく、まだ「紛失」されてはいなかったオリジナルの楽譜を使っての演奏のはずですから、これはとても貴重な「記録」です。
そこで、オリジナルとは大きく変わっている(最初のテーマから「F#-D-C#」の音型が「F#-C#-A」に!)「リタニ」の2曲目の楽譜を頼りにこの1957年の録音と、さっきの1982年以降の録音を比べてみると、それらはほぼ同じものであることが分かりました。ただ、聴いただけで明らかに異なっていると分かる部分が、とりあえず2か所見つかりました。それは、

  • 8小節目の最後、1982年以降のものにはフェルマータのあとに「G-D」という単音のフレーズが入っていますが、1957年の楽譜ではそれがありません。
  • 14小節目の後半、「リタニ」とは異なり早い下降音型は中断しないで一気に最後まで続いていますが、この長さが双方では少し異なっています。

ですから、この2種類の演奏の楽譜が別のものであることは間違いありません。それが、初演に使われた楽譜と、そのスケッチ(あるいは別バージョン)、という位置づけになるのでしょう。
これで、「二つのレント」の様々なバージョンの正体が、まるでレントゲンで見たようにはっきりしたのではないでしょうか。

CD Artwork © Naxos Japan, Inc.
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by jurassic_oyaji | 2016-03-16 00:20 | 現代音楽 | Comments(0)