おやぢの部屋2
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L'ESTRANGE/On Eagles' Wings
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Nigel Short/
Tenebrae
SIGNUM/SIGCD454




1974年に生まれたイギリスの作曲家アレグザンダー・レストレンジの宗教的な合唱作品を集めたアルバムです。彼は合唱曲の作曲家、あるいは編曲家としては今や超売れっ子の存在、その編曲のクライアントとしては、「スウィングル・シンガーズ」、「ヴォーチェス8」そして「キングズ・シンガーズ」といった最強のア・カペラのグループが名を連ねています。
レストレンジ自身も、幼少のころからオクスフォードのニュー・カレッジの聖歌隊の一員としてエドワード・ヒギンボトムの指揮のもとでボーイ・ソプラノとしての演奏活動を行っていました。それと同時にジャズにも関心を示し、ピアノで即興演奏なども行っていたそうです。あるときなどは、聖歌隊でハーバート・ハウエルズの有名な聖歌「汚れなきバラ」を歌った時に、ホ長調の三和音で終わるその曲の最後に他の聖歌隊員と共謀して9音であるF♯の音をハミングで歌って、ジャズ風の「ナインス・コード」にしてしまうといういたずらをやったりしたのだそうです。
そんなレストレンジ少年は、幼少期の興味をそのままに伸ばして、それを職業とする幸せな生涯をたどっているところなのでしょう。現在では作曲家であると同時に、ジャズ・プレーヤーとしても、ピアノと、さらにはベースまで演奏するようになっているのだそうです。
このCDには、彼の、主に実際に礼拝に用いるために作られたもの以外にも、例えば結婚式のお祝いのために作られたものなど、最近の作品が収められています。最も古いものでは2001年、そして、最も新しいのが、2014年に、彼の古巣ニュー・カレッジの礼拝のために作られた2曲、「Magnificato」と「Nunc Dimittis」です。これらは英語の歌詞に直されていますが、その年にこのチャペルのオルガニストと指揮者のポストから引退することになっていたヒギンボトムのためのお祝いという意味が込められています。
それは、単に「お祝いの意味を込めた」という抽象的な「気持ち」ではなく、もっと具体的な技法として示されています。例えば、ホ長調で作られた1曲目の冒頭のオルガンのイントロが、最初に9度の跳躍が登場するというとてつもないテーマで始まり、それが続く合唱でのメインテーマとなるのですが、それは移動ドで読めば「ド・↑レ」、つまり「1度」と「9度」、そのあとに続く音が「シ・ラ」ですから、その4つの音で「1976」となります。これは、ヒギンボトムがこのチャペルのオルガニストに就任した年なのだそうです。さらに、もう一つのテーマがドイツ語読みで「E-H」(つまり「ド・ソ」)から始まるのですが、これはエドワード・ヒギンボトムのイニシャルですよね。2曲目でも、「レ・シ・ド・ファ」というテーマが使われていますが、それは「2014」(「シ」は「ド」の前なので「0」になります)という、まさにその引退の年になるわけです。
そして、そこにとっておきのジョークが加わります。この2曲目の最後のコードは、30年前にレストレンジ少年がヒギンボトムから大目玉をくらった「E9th」そのものだったのです。
オルガンの伴奏が付いたり、ア・カペラで歌われたりと続くレストレンジの作品は、やはり基本的にジャズのイディオムがあちこちに感じられるものです。アルバムタイトルとなっている「On Eagles' Wings」は、決して楽天イーグルスの応援歌ではなく聖書の中の「Eagle」がらみのフレーズを集めたものですが、オルガンと女声合唱で歌われるまさにジャズ・コーラスそのものです。最後のコードはメージャーセブンスから派生した高度なものですし。
そんな手の込んだ、しかしあくまで柔らかな肌触りを持つ曲を、「テネブレ」の、まさにかゆいところに届くような行き届いた演奏で聴いてきたら、最後になっていきなりピアノ伴奏のなんともシンプルな曲が現れました。この「An Irish Blessing」という曲は、実は彼の奥さんのジョアンナさんが作曲したものなんですって。

CD Artwork © Signum Records
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by jurassic_oyaji | 2016-05-12 20:22 | 合唱 | Comments(0)