おやぢの部屋2
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Urgency of Now
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Rythm Art Duo
(Daniel Berg, Fredrik Duvling)
Jan Yngwe/
Vocal Art Ensemble of Sweden
FOOTPRINT/FRCD 080




以前ご紹介した同じレーベルのこんなアルバムと、とてもよく似たジャケットですね。いずれもほとんど聞いたことのない名前の合唱団のアルバムですが、ジャケットだけではなく、取り上げている作品の傾向も、そして歌っている合唱団の資質までもとてもよく似ていることに驚かされます。
このアルバムの合唱団の名前は「ヴォーカル・アート・アンサンブル・オブ・スウェーデン」ですが、指揮をしているヤン・ユングヴェによって1978年に作られた時には「プロ・ムジカ室内合唱団」という名前でした。それが2013年に創立35周年(なんだか半端ですが)を迎えたことを記念して、新しい名前に変えたのだそうです。そして、2014年の3月と5月に録音されたこのアルバムが、新しい名前による最初のものとなりました。
このタイトルは「今の緊急事態」とでもいうような意味なのでしょうか、そもそもは、作曲家でもある指揮者のユングヴェが委嘱を受けてこのアルバムのために書き下ろした、マルティン・ルーサー・キングの有名な演説をテキストにした作品の最後に現れる言葉なのですが、それはアルバム全体のコンセプトとしても使われているのです。それは、「音楽を通してのマニフェスト」だと、指揮者はライナーノーツで語っています。
そんな、とても「重い」テーマを背負っての演奏は、このところあちこちで評判のエシェンヴァルズの2012年の新作「The New Moon」で始まります。最近はずいぶん丸くなってしまったような印象を受けるこの作曲家ですが、この曲はまだまだ芯の強さが感じられる、まさにこのアルバムの冒頭を飾るにふさわしい「力」を持ったものでした。
しかし、次の、やはり同じ作曲家による2009年の作品「O salutaris hostia」では、それとは正反対のもっと穏やかな情感が広がります。ここでは女声のソリストが2人、とてものびやかな声でまるでポップス・チューンのようなキャッチーなデュエットを披露してくれますし、それを取り巻く合唱もあくまで穏やかです。どうやら、ここでは先ほどの「マニフェスト」というのはかなり幅広い内容を持っているのでしょう。ちょっと身構えて聴き始めた人は、そんな必要はさらさらなかったことに気づくはずです。ここで、ア・カペラの合唱のバックに鳴り響いているのは水を入れたワイングラスの縁をこすって出される音。いわゆる「グラス・ハーモニカ」ですね。そのあくまで無垢で透明なハーモニーは、心底癒しを生むものです。ちなみに、そのグラスはメンバーの自前です(「わいのグラス」)。続くサンドストレムの「To See a World」もとことん穏やかな音楽ですし。
しかし、ラヴェルの「マ・メール・ロワ」の最後の曲「妖精の園」がティエリー・マシュエルによって合唱に編曲されたヴァージョンを聴くころには、そんな穏やかさは単に選曲に由来しているものではなく、この合唱団のキャラクターそのものが反映されたものなのではないか、という思いに駆られてきます。それほどに、この曲での歌い方はなんともだらしなく聴こえてきます。さっきのソリストたちの声は、どうやらこの合唱団の中ではきわめて特殊なものだったのだということを、軽い失望とともに知ることになったのです。録音会場が非常に残響の多い教会ですから、ハーモニーなどはいかにもきっちり決まっているようには聴こえるのですが。
そうなってくると、メインの曲である「Urgency of Now」での前衛的な手法も、2人のシンガー・ソングライターの曲を合唱にアレンジした「Hymn of Acxiom」と「Hide and Seek」のシンプルさも、なにか空々しく感じられてしまいますし、キューバの作曲家アルバレスの「Lacrimosa」や、フィリピンの作曲家パミントゥアンの「De Profundis」の持つ逞しさも影が薄くなってしまいます。
結局、かろうじて彼らの手におえるのはバーバーの「Agnus Dei」や、やはりグラス・ハーモニカの心地よいナインス・コードに助けられたエシェンヴァルズの「Stars」程度のヒーリング・ピースなのでしょうか。

CD Artwork © Footprint Records AB
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by jurassic_oyaji | 2016-06-11 21:02 | 合唱 | Comments(0)