おやぢの部屋2
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SCHUBERTIADE
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Julian Prégardien(Ten, Nar)
Marc Hantaï(Fl)
Xavier Diaz-Latorre(Guit)
Philippe Pierlot(Bar)
MYRIOS/MYR018(hybrid SACD)




良心的なSACDを、まさに手作り感覚で作り続けているMYRIOSレーベルの最新アルバム、今回は、ユリアン・プレガルディエンを中心にしたメンバーが集まって、「シューベルティアーデ」を再現するという企画です。
「シューベルティアーデ」というのは、シューベルトが生前に行っていたサロンコンサートのことです。デザートは栗饅頭(それは「マロンコンサート」)。彼を取り巻くお金持ちの友人が自宅を提供し、そこにさらに仲間たちが集まって一夜の音楽会を催すという贅沢なイベントです。大広間の中央のピアノの前にはシューベルトその人が座り、出来たばかりの歌曲をシューベルトの伴奏で歌ったり、室内楽を演奏したりと、楽しいひと時は夜遅くまで続きました。
最初に開催されたのは1821年、その年の1月3日に、フランツ・フォン・ショーバーのお宅で開かれたコンサートから、「シューベルティアーデ」の歴史が始まります。それは、最盛期にはほぼ毎週開催されていたのだそうです。
1826年の12月15日に、シューベルトのコンヴィクト時代の先輩で友人であるヨーゼフ・フォン・シュパウンの家に集まったお客さんは40人ほどにもなっていましたが(参加していた画家のモーリツ・フォン・シュヴィントによって1868年に描かれたその時の模様の絵画が残っていて、そこにいたすべての人が特定できているのだそうです)、今回開かれた21世紀の「シューベルティアーデ」のお客さんは、あなた一人です。そして、歌手の伴奏をするのは、ピアニストではなくギターとバリトンの奏者です。もちろん、「バリトン」というのは歌手ではなく、この当時にしか使われることのなかったヴィオール族の楽器のことです。

そしてもう一人、同じようにこの時代にしか使われることのなかった、「フルート」の奏者も加わります。フルートという楽器は今でもありますが、それはこの時代のちょっと後に今のような形になったもので、それ以前は様々な形とメカニズムを持った楽器が混在していました。ここで使われているのは、おそらく1825年頃に作られた9つのキーを持つ楽器のコピーでしょう。
最初に聴こえてきたのは、プレガルディエンによる「歌」ではなく「朗読」でした。とてもリアルな音で、きれいなドイツ語の発音が聴こえただけで、すでに19世紀のウィーンのサロンの雰囲気が漂います。おそらく、このように仲間が作ってきた詩を読み合うようなこともあったのでしょう。それをシューベルトが気に入れば、その場で曲を付けて披露する、みたいな愉しみもあったのかもしれませんね。
そして、まずはギター1本の伴奏で歌が始まります。そのギターの音の、なんと魅力的なことでしょう。なんでもこれは1842年に作られた楽器なのだそうですが、その、ただ「柔らかい」などという言葉では表現できないような、とことん聴く人を喜ばせるためだけに長い間磨かれてきた音が、そこからは聴こえてきたのです。そして、それに応えるかのように、プレガルディエンも、ただ「声」を出すだけでそれが「歌」になっているという、ほとんど奇跡のようなことを繰り広げていました。それは、シューベルトの「歌曲」というものが持つ根本的な資質をも問われるほどのインパクトを伴って訴えかけてきます。シューベルトを歌う時には、別に本格的なベル・カントではなく、ほとんど鼻歌程度のささやきでもしっかりその音楽は伝わるのだ、と。まるで、そのことを知らしめるためにこのような「サロン」を再現したのでは、とさえ思えるほどに、彼の「歌」のさりげなさには強い力がありました。
そんな場では、シューベルトはとてもしなやかな柔軟性を持つことになります。誰でも知っている「野ばら」や「セレナーデ」にこれだけの装飾を施しても全く違和感がないのも、そんな「サロン」の空気のせいなのでしょう。その空気までも見事に収めた録音が、あなたの目の前に2世紀前の世界を広げて見せてくれます。

SACD Artwork © Myrios Classics
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by jurassic_oyaji | 2016-07-02 20:50 | 歌曲 | Comments(0)