おやぢの部屋2
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BACH/The Complete Keyboard Works
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Zuzana Růžičková(Cem)
Josef Suk(Vn)
Pierre Fournier(Vc)
Jean-Pierre Rampal(Fl)
ERATO/0190295930448




ズザナ・ルージッチコヴァーというチェコのチェンバロ奏者の名前を懐かしく思い浮かべられるのは、ある年代より上の人だけのはずです。1927年生まれでまだご存命ですが、今では演奏活動からは全く遠ざかっていますから、もはや完全に「過去の人」になっています。
とは言っても、現役で活躍していたころには、FMの音楽番組ではかなり頻繁にその名前を聞くことが出来ました。なんせ「ルージッチコヴァー」などという、一度聞いたら忘れられない(いや、正確には「一度聞いても覚えられない」)不思議な名前ですからね。ラジオで彼女の名前を告げるアナウンサー(たとえば後藤美代子さん)や音楽評論家(たとえば大木正興さん)の口調には、この難しい名前を流暢に発音できることに対するなにか自慢げなニュアンスが感じられましたね。
彼女がそのようなメディアで紹介され始めた頃は、チェンバロ奏者と言えばヘルムート・ヴァルヒャかカール・リヒターといった重厚な演奏家が人気を博していたようですが、そんな中にちょっと「傍系」といった感じで、彼女は紹介されていたのでは、というぼけっとした印象があります。
チェコのミュージシャンですから、やはり当時の国営レーベルだったSUPRAPHONEへの録音がメインだったのでしょうが、なぜかフランスのERATOレーベルのプロデューサー、ミシェル・ガルサンは、彼女を使ってバッハのチェンバロ作品の全集を作ることを考えました。そして、1965年から1973年にかけて録音が行われ、1975年から22枚(品番はERA 9030からERA 9051)のLPとしてリリースされました。手元には1975年に発行されたERATOのカタログがありますが、そこにはマリー=クレール・アランが最初に作ったLP24枚組のオルガン曲全集と並んで、このルージッチコヴァーのチェンバロ全集が大々的に紹介されています。当時としては、それほど画期的な偉業だったのですね。確か、同じような全集では、DG(ARCHIV)のカークパトリック、EMIのヴァルヒャに次ぐ3番目のものだったのではないでしょうか。

今回のCDボックスでは、その22枚が17枚のCDに収まっています。さらに、同じ時期にやはりERATOに録音したヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ(チェロで演奏)とヴァイオリン・ソナタの全曲、そして、トリプル・コンチェルトとブランデンブルク協奏曲第5番のアルバムも、3枚のCDになっていて、ちょうど20枚組のボックスとなっています。協奏曲に登場するフルーティストはランパル、彼はすでに1962年にロベール・ヴェイロン=ラクロワとのフルート・ソナタのアルバムを作っているので、ルージッチコヴァーとの共演はこれだけです。
彼女がこの録音を始めた頃は、世の中はモダン・チェンバロ一辺倒の時代でした。もちろん彼女も、ドイツのメーカー、アンマー、ノイペルト、そしてシュペアハーケという3種類の楽器を使っています。しかし、次第に訪れるヒストリカル・チェンバロの波にも敏感だった彼女は、このツィクルスのセッションの終わりごろ、1973年(資料によっては1972年)には「小さなプレリュード」(ERA 9049)と「組曲」(ERA 9050)のLP2枚分を、1754年と1761年に作られた2台のジャン=アンリ・エムシュの復元楽器を使って録音しています。
スリーブには録音年代と使用楽器が詳細に記載されていますから、モダンとヒストリカルの違いをはっきり確かめることが出来ます。最近ではほとんど聴くことのできないモダン・チェンバロの音はどういうものだったのか、これではっきり知ることが出来ることでしょう。こういう時代もあったのです。しかし、それに対してヒストリカル・チェンバロだとされている録音を聴いても、音色は確かに別物であるにもかかわらず、そのあまりにも非現実的な録音レベルの高さに驚かされます。モダンに慣れ親しんだエンジニアが、ヒストリカルの音を聴いて取った行動は、こういうものだったという、まさに「歴史的」な記録がここには残されているのです。

CD Artwork © Parlophone Records Limited
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by jurassic_oyaji | 2016-10-27 20:51 | ピアノ | Comments(0)