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BERIO:Sinfonia, MAHLER/BERIO:10 Frühe Lieder
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Matthias Goerne(Bar)
The Synagy Vocals
Josep Pons/
BBC Symphony Orchestra
HARMONIA MUNDI/HMC 902180



2003年に亡くなったイタリアの「現代」作曲家、ルチアーノ・べリオの、マーラーがらみの2つの作品です。メインは1968年に作られた(1969年に改作)「シンフォニア」、そして、前プロとして、マーラーの歌曲集「若き日の歌」を、ベリオがオーケストラ伴奏に編曲したバージョンから10曲が演奏されています。
その「若き日の歌」は、マーラーが3巻に分けて出版した14曲から成るピアノ伴奏の歌曲集です。ただ、第1巻と、2、3巻との間には作曲の時期が少し空いています。その後半の2、3巻では、テキストはすべてドイツの民謡詩集「子供の不思議な角笛」から採られています。ベリオはそれらから全くランダムな曲順で選んで1986年に5曲、1987年に6曲のオーケストラ編曲版を作りました。ただ、オリジナルの第1巻の2曲目「思い出」だけは、2度編曲を行っていますから、実際に編曲されたマーラーの曲は10曲となります。このCDでは、その「思い出」は1986年版が使われています。
ただ、6番目に演奏されているオリジナルでは第1巻の3曲目「ハンスとグレーテ」のテキストが、ブックレットのクレジットでは「子供の不思議な角笛から」となっていますが、これは誤りです。この曲はもっと早い時期に作られたものを改作したもので、マーラー自身が歌詞を書いています。もちろん、日本の代理店ごときがそのことに気づくはずもありません。この曲、実は彼の「交響曲第1番」の第2楽章の元ネタとなっていますね。
ベリオの編曲は、もちろん「現代」作曲家とは言っても例えばハンス・ツェンダーがシューベルトの「冬の旅」に対して施したような過激な改変は全くなく、至ってまっとうなものでした。ただ、やはり随所にベリオならではの味が見出せます。そんなオーケストラをバックに、ゲルネは多彩な音色を駆使してとてもドラマティックな歌を聴かせてくれています。
そして、今ではほとんどベリオの代表作となっている「シンフォニア」です。考えてみれば、もう作られてから半世紀も経っているんですね。そんな歴史の「篩(ふるい)」にかけられて、いまだに色褪せない魅力を誇っている名作です。オーケストラの中に8人の歌手が混ざるというユニークな編成が取られていますが、そもそもは「スウィングル・シンガーズ」がそのパートを歌うことを想定して作られたものでした。この団体、今でもイギリスで同じ名前で活躍していますが、この曲が作られた頃のグループはまだ創設されたフランスが本拠地でした。バッハの曲を「ダバダバ」と歌っていた頃ですね。
もちろん、ニューヨーク・フィルが行った初演にも彼らが参加していますし、それ以後もこのグループ、あるいはイギリスでリーダーのウォード・スウィングルが新たに作った別の「スウィングル」という名前の入った団体が、この作品には必ず出演していたのではないでしょうか。
しかし、その後は全く別のアンサンブルでも、この曲のこのパートを任されるようになっていました。そして、今回のアルバムで起用されているのが「ザ・シナジー・ヴォーカルズ」という、花輪クンの執事(それは「ヒデジー」)みたいな名前の団体でした。このグループは、1996年にロンドン交響楽団がスティーヴ・ライヒの「テヒリーム」(1981)を演奏する時に設立されたそうですが、その中心メンバーは当時の「スウィングル・シンガーズ」のメンバーだったミカエラ・ハスラムでした。時代が巡って、また同じ遺伝子を持つ団体にお鉢が回ってきた、ということでしょうか。
この曲の聴きどころは、なんと言っても第3楽章の、マーラーの交響曲第2番の第3楽章をベースにした壮大なコラージュのシーンでしょう。何度も聴いていますが、そこに引用されている曲にはいまだに「なんだったかな~」と思ってしまって、しばらく頭から離れないものがありますね。それが、ベリオがこの曲に仕掛けた罠なのでしょう。

CD Artwork © harmonia mundi musique s.a.s.

by jurassic_oyaji | 2017-01-24 23:30 | 現代音楽 | Comments(0)