おやぢの部屋2
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UR
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Eva Holm Foosnæs/
Kammerkoret Aurum(hybrid SACD)
2L/2L-129-SACD(hybrid SACD)



今年も、「グラミー賞」の発表が行われ、受賞作を巡って悲喜こもごもの報道が世間をにぎわせていますね。あの賞は基本的にポップスのアルバムに対するものなのでしょうが、一応クラシックにも義理立てをして、最後の方に申し訳程度にクラシック関係の部門が設けられています。そんな「付け足し」に対して、業界はことさら大袈裟に騒ぎ立てていますが、それはなんとも無益なことのように思えてしまいます。
とは言っても、実際に自分で買って聴いたアルバムがそんな賞は取らないまでも、ノミネートでもされていたりすれば、なんか得をしたような気分にはなりますね。
この2Lレーベルなどは、そんな賞とは全く無縁なところでコアなファンを相手に勝負をしているように思っていたのですが、昨年リリースされた3枚のそれぞれソロ・ボーカル、合唱、室内楽のアルバムがノミネートされていたことに気づきました。録音関係の部門がほとんどですが、そのうちのこちらの合唱のアルバムは「Best Choral Performance」という演奏部門でのノミネートです。
今回のアルバムは、来年ノミネートされることはあるのでしょうか。タイトルの「ur」とは、ノルウェー語で「ウル」と発音します。意味は「時間」とか「起源」とか「野生」といった様々な内容が含まれているようです。ジャケットに使われている北欧の針葉樹林の写真が、それをイメージとして伝えているのでしょう。勝手な想像ですが、原初のころからの自然の持つ野生のエネルギーが、時間を超えて現代の音楽家の創造の源となり、その結果出来上がった作品がこのアルバムには収められている、といったほどの意味合いなのではないでしょうか。
ここでこのアルバムのために新しい作品を提供しているのは、現代ノルウェーの5人の作曲家です。それらは、ここで演奏している2006年に創設されたというアウルム室内合唱団の指揮者を2012年から務めているエヴァ・ホルム・フースネスを始め、オイヴィン・ヨハン・アイクスン、マッティン・アイケセット・コーレン、ガイル・ドーレ・イェルショーといったほぼ30代の若手の作曲家たちと、彼らの一世代上のオッド・ヨハン・オーヴェロイという、完璧に知名度の低い人たちです。
ラテン語で「金」をあらわす言葉を名前に持つこの合唱団は、24人編成の室内混声合唱団、との説明がありますが、ブックレットのメンバー表を見ると30人以上の名前がありました。実はこのアルバムのための録音セッションは、2015年の2月と2016年の3月との2回に分けて行われています。それぞれのセッションでメンバーが各パートで2~3人別の人に替わっているのですね。1年の間にメンバーが辞めて別の人が加わったのか、あるいは常時30人以上のメンバーがプールされていて、コンサートやレコーディングはその時に適宜ピックアップされたメンバーで行っているのか、いずれにしてもこの国の合唱人の底辺はたいへん広いことが分かります。どの曲がどのメンバーで歌われているかはちゃんと分かるようになっていますが、もちろんそこで違いを見出すことなどできません。いずれも、「金」というよりは「いぶし銀」に近い、深みのある輝きを持った音色の合唱が、いつもながらの卓越した録音で圧倒的に迫ってきます。
作品は、古典的な和声を逸脱しない程度の、ほんの少しの「現代的」な響きが混じった中で、民族的なイディオムも垣間見られる、という心地よいものばかりです。中でも、野生動物をテーマにした、最年長のオーヴェロイの3つの作品がかなりのインパクトを与えてくれます。「マッコウクジラ」では、クジラの鳴き声の合成音、「アンコウ」では低音のドラムが加わります。それまでずっとア・カペラだったものが、最後のトラックでそのドラムの音が聴こえてきた時には、心底びっくりしてしまいました。それは恐ろしいほどのリアリティをもって、一瞬でまわりの風景を変えてしまいました。

SACD Artwork © Lindberg Lyd AS

by jurassic_oyaji | 2017-02-18 20:31 | 合唱 | Comments(0)