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GENZMER/Works for Mixture Trautonium
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Peter Pichler(Mixturtrautonium)
Jan Kahlert, Tschinge Krenn(Volkstrautonium)
Manfred Manhart(Pf, Cond)/
Orchestra
PALADINO/pmr 0081


第一次世界大戦後、テクノロジーをベースにした「電子楽器」が次々と発明されました。1920年にロシアで誕生した「テルミン」、その流れを汲んで1928年にフランスで作られた「オンド・マルトノ」、そして同じころにドイツで発明されたのが「トラウトニウム」です。
それはプロシアの文化大臣が1928年にベルリンに設立した「ラジオ実験センター(Rundfunkversuchsstelle)」のエンジニア、フリードリヒ・トラウトヴァインが中心になって開発された電子楽器です。そこでは作曲家のパウル・ヒンデミットも協力していました。そして1930年にヒンデミットの「3つのトラウトニウムのための7つのトリオ」という作品が作曲者自身ともう2人のピアニストによって演奏されて、この楽器は初めて公の前に姿を現したのです。この楽器には鍵盤はなく、オンド・マルトノのような「リボン・コントローラー」で音階やグリッサンドを操作します。
この時に演奏に加わっていた、ヒンデミットの生徒のオスカル・ザラは、その後もこの楽器と関わり続けます。翌年にはドイツの電機メーカーTELEFUNKENとの共同開発によって出来上がったコンパクトな「フォルクストラウトニウム」という商品が販売され200台ほど売れたのだそうです。
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ザラは、この楽器を多くの場所で演奏、さらには映画音楽にも携わります。最も有名なものはヒッチコックの「鳥」のサントラに使われた、鳥の大群の効果音でしょう。さらに彼は、この楽器を高機能のものへと改良することに情熱を注ぎました。オシレーターやバンドパス・フィルター、エンヴェロープ・ジェネレーターなどのモジュールも組み込み、リボンも2段装備して、2声部での演奏も可能にしました。これが「ミクストゥーアトラウトニウム」という楽器です。これはまるでモーグのモジュール・シンセサイザーのような外観ですね。それに対して、さっきのフォルクストラウトニウムはミニモーグそっくり。これは単なる偶然なのでしょうか。
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そしてもう一人、この楽器の魅力に取りつかれた人がいました。それが、やはりヒンデミットの生徒だった作曲家、ハラルド・ゲンツマーです。ゲンツマーはザラからのサジェスチョンを受けながら、この楽器のための作品を数多く残したのです。
しかし、オスカル・ザラは、弟子を育てるということは全く行わなかったため、彼が2002年に亡くなった後はこの楽器の奏法を習得していた人は誰もいなくなってしまったのです。そんな時に、全くの独学で、この楽器の奏法をマスターしていたのが、このアルバムの演奏家、ペーター・ピヒラーです。彼は多数の楽器を演奏できるだけでなく、作曲家、編曲家としても活躍しています。彼が使っている楽器は、上の写真のドイツの「トラウトニクス」というところで作られたカスタムメイドの楽器です。
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彼は、この写真のように楽器と同時にミキサーも操作して、それぞれの声部の音を左右に振り分けたり、リバーブをかけたりしています。そのようにして録音されたゲンツマーの作品から聴こえてきたこの楽器の音からは、大戦間の古色蒼然としたノスタルジーなどは全く感じることはできません。そこには、最新のデジタル・シンセサイザーをも凌駕する新鮮なサウンドがありました。
中でも衝撃的だったのが、1958年に作られた「電子楽器のためのダンス組曲」です。これは、そもそもはザラのスタジオでテープに音を重ねて作られたものです(その音源によるLPは、1972年にERATOからリリースされました)。
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それを、ピヒラーは1台のミクストゥーアトラウトニウムと2台のフォルクストラウトニウムでライブ演奏ができるように書き換えました。これはもう、「電子音」がまさに「踊って」いるかのような新鮮な音楽です。4つの曲で出来ていますが、最後の「Ostinato accelerando」などは、その「オスティナート」がまるで低音のリフのようで、今のダンス・シーンでも立派に通用するほどのポップな作品です。

CD Artwork © paladino media gmbh

by jurassic_oyaji | 2017-03-30 20:54 | 現代音楽 | Comments(0)