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ザップル・レコード興亡記/伝説のビートルズ・レーベルの真実
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バリー・マイルズ著
野間けい子訳
河出書房新社刊
ISBN978-4-309-27818-6


「ザップル・レコード」というのは、あのビートルズがその後期に様々なビジョンを実現させるために起こした会社「アップル」の中に作られた実験的なレーベルのことです。「アップル」に関してはこれまでに膨大な文献が登場していて、その実態はほぼ明らかになっていますが、「ザップル」についての詳細な資料はあまりなかったところに、そのマネージャーを任され、実質的なレーベルの責任者だったバリー・マイルズが自ら著した「手記」が発表されました。最初にイギリスで出版されたのは2015年、その時のタイトルは「The Zapple Diaries」でしたが、翌年アメリカで出版された時には、「The Rise and Fall of the Last Beatles Label」というサブタイトルが付いていました。それが2017年2月には早くも日本語訳が登場してしまいました。
これはまさに「日記」、著者のマイルズが、「ザップル」が出来てから消滅するまでの、その日その日に起こったことをざっくりと書き綴ったものですが、そこに、その後の文献からの引用が多数挿入されているのが「記録」としての価値を上げています。日本で出版されたものには、その出版元もきちんと併記されているのも、とても親切。
このレーベルの最も近いところにいた人の書いたものですから、事実関係は詳細を極めていますが、それは殆どマイルズの本来のフィールドである文学的な仕事に関するもので、正直それほどの興味はわきません。ただ、その隙間を埋めるかのようにちりばめられた、「ザ・ボーイズ」(ビートルズのメンバーたちを、彼はそのように読んでいます)のエピソードは、かなり新鮮なものでした。ポールにしてもジョージにしても、とにかくお金に関してはやたら気前がいいのですね。
ジョンに関しては、ヨーコとの絡みが赤裸々に語られています。そこで暴露されるのが、ジョンの「アヴァン・ギャルド」に対するスタンスです。世間一般の受け止め方では彼はそのような芸術に理解を持っている人とされているのでしょうが、実際には彼は「アヴァン・ギャルド」への関心もスキルも全くなかったことが、ここでは明らかにされています。それは単に、ヨーコへの憧れのようなものだったのでしょう。
そのヨーコの「バックバンド」として参加した時に、彼が行ったパフォーマンスに関しての言及には、笑えます。彼は、ヨーコの「前衛的」なパフォーマンス(実体は、ただ意味のない悲鳴を上げていただけ)に合わせて、ギターアンプの前にギターを持って行ってジミ・ヘンドリックスのような(ですらない)ハウリングを出していただけだったというのですからね。
そんなものをA面に収録したアルバムが、1969年5月にザップルから最初にリリースされた「Life with the Lions」(Zapple 01)でした。そして、同時に「Zapple 02」という品番でリリースされたのが、ジョージの「Electronic Sound」というアルバムです。実は、このアルバムに関する部分が、最も興味深く読めてしまいました。
日本盤は確か「ジョージ・ハリスン/電子音楽の世界」みたいな大げさなタイトルだったように記憶していますが、実体は、その頃発表され、あの冨田勲も購入した「モーグIII」というモジュラー・シンセサイザーを演奏していただけなのですがね。そんな、なぜジョージがこの「楽器」に興味を持ったか、そして、それを購入する顛末、さらには、このアルバムに収録されている「作品」の出自(半分は別の人が演奏したもの)などが、ここでは事細かに語られていますよ。
この時には、音を出すこともできなかったジョージは、後に「Abbey Road」の中の「Because」では、モーグIIIのソロを披露できるまでになっていたんですね。でも、この件については新たな検証が必要なのかもしれません。この本によると、ジョージ(・ハリスン)より先にジョージ・マーティンも同じシンセを購入していたそうですから。

Book Artwork © Kawade Shobo Shinsha, Publishers

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by jurassic_oyaji | 2017-05-06 19:50 | 書籍 | Comments(0)