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ピリオド楽器から迫るオーケストラ読本
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「音楽の友」編
佐伯茂樹監修
音楽之友社刊(ONTOMO MOOK)
ISBN978-4-276-96263-7


「ピリオド楽器」という言葉は、現在ではかなり知られるようになってきました。とは言っても、その正確な意味を把握している人はそれほど多いとは思えません。
これは「特定の時代の楽器」という意味。これとほぼ同じものを指し示す言葉として「オリジナル楽器」と「古楽器」がありますが、これらは正確さにかけては「ピリオド楽器」に負けてます。「オリジナル楽器」には時代的な意味が全く感じられませんし、「古楽器」には、「古い」時代しかカバーできないようなイメージがありますからね。
つまり、「古楽器」と言うと、バロック時代以前の楽器が連想されるのが普通のことではないでしょうか。確かにこの時代の音楽に使われた楽器やその演奏スタイルについての研究が進んで、世の中は今の楽器とは外見ではっきり異なっている「古い」楽器を使った演奏がほぼスタンダードになりつつあります。
しかし実際は、もう少し時代が進んだ「古典派」や「ロマン派」の音楽でも、今の楽器とは微妙に異なった楽器が使われていたわけで、最近ではそれを演奏面で実践している団体もたくさん出てきているのです。そんなまさに、そんなに「古く」ない時代の音楽でも、「その時代の楽器」が使われるようになってきた、という流れを受けて、そこまでカバーできるタームとして俄然主役に躍り出てきたのが「ピリオド楽器」という言葉なのです。
今回、音楽之友社から、こんなムックが出るようになったのも、そのような最近の流れがかなりの現実味を帯びてきたことの表われなのでしょう。実は、「古典派」や「ロマン派」の時代の楽器の方が、それ以前の「バロック」の時代の楽器よりも正しい情報が広まっていないのだそうで、その辺の間違いや勘違いを正す、といった意気込みさえも、ここには込められているようです。
なんたって、監修者としてほとんどの原稿を執筆しているのがこの時代の楽器のオーソリティの佐伯さんですから、これはとても読みごたえがあります。写真も豊富に使われていて、いかにこの時代の楽器と現代のものとは異なっていたかがはっきり分かります。何より重要なのは、作曲家がその曲を作った時には、間違いなく当時の楽器を念頭に置いていた、ということが、ここでははっきり示されている、ということではないでしょうか。クラシック音楽の場合、演奏家の使命は作曲家の意図を正確に再現することに尽きますが、その際に手掛かりになるのは楽譜だけではなく、その当時の楽器の情報だ、という監修者の主張が、至る所から伝わってきます。
たとえば、「(ピッコロは)王侯貴族の趣味の楽器として親しまれてきたフルートとは違い、野外の行進などで遠くまで通る鋭い音を持っていた。ベートーヴェンの交響曲第5番の第4楽章でも、オーケストラ全員がffで鳴らしている場面でもピッコロのパッセージが浮かび上がる」というような記述には、実際に普通のオーケストラの中でこのパートを演奏して報われない思いを体験したものにとっては、激しく同感できる部分があります。
とは言っても、「ワーグナー・テューバ」の説明で、いわゆる「テューバ」との「混同を避ける」ために「テノールテュー」と「バステュー」と表記しているのは、明らかな間違いでしょう。スコアにドイツ語で「Tuben」とあるのは複数形で、単数形は「Tuba」なんですからね。
もう1点、ここではピリオド楽器を使っている団体の紹介もされていますが、その中で「レ・シエクル」の扱いが異様に多いのが気になります。確かにこの団体は現在最も注目に値するオーケストラであることに異論はありませんが、この極端さは、裏表紙全面に広告を掲載しているこの団体のCDの販売元(キングインターナショナル)に対する「忖度」だと思われても仕方がありません。「損得」しか考えられない出版社とは、なんと悲しいことでしょう。

Book Artwork © Ongaku No Tomo Sha Corp.

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by jurassic_oyaji | 2017-07-01 21:03 | 書籍 | Comments(2)
Commented by やさぐれ主婦 at 2017-07-02 02:23 x
今年の流行語大賞候補と思われる「忖度」も本来の意味から外れて使われてしまってますね。
言葉は生き物、時代に合わせて変化する物、とは言え、マスコミが率先して誤用を繰り返すのも如何なものかと思ってしまいます。
本題と関係無いコメントで申し訳ありません。
Commented by jurassic_oyaji at 2017-07-02 10:34
> やさぐれ主婦さんこんにちは。

私の場合も「忖度」(カッコつき)ですから、「他人の気持ちを推し量って便宜を図る」という紛れもない誤用です。でも、流行語大賞の頃には、もう忘れられているかもしれませんね。