おやぢの部屋2
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DVOŘÁK/Symphony No.9
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Kevin John Edusei/
Chineke! Orchestra
SIGNUM/SIGCD515


「チネケ! オーケストラ」という、聴きなれない名前のオーケストラのデビュー・アルバムです。熱血漢が集まっているのでしょうか(それは「血の気」)。
最初、このジャケットを見た時には、この10人ぐらいのメンバーだけで「新世界」などを演奏しているのかな、と思ってしまいました。実は普通の編成のシンフォニー・オーケストラだったんですね。ブックレットにはメンバー表もありますが、きっちり14型、2管編成で、総勢71人です。
「チネケ」は、英語では「Chineke」という表記、これは、ナイジェリアあたりで使われている言語「イボ語」で、「神」という意味の言葉なのだそうです。「神!」なんですね。そもそもは、2015年にイギリスで設立された「チネケ!財団」というNPOが母体になっていて、そこにはこの「チネケ! オーケストラ」と、「チネケ! ジュニア・オーケストラ」の2つの団体が所属しています。
そして、最も重要なのは、ここに属するのは全て「黒人と少数民族」だということです。そのような人たちがイギリスのみならず、ヨーロッパ全土から集まって、これらのオーケストラのメンバーになっています。最近では、有名なオーケストラでこのようなマイノリティの奏者を見かけることは良くありますから、以前は確かにあった「壁」というか「差別」は少なくなっているのでは、と思っていたのですが、実情はそんなに甘いものではないのでしょうね。なんとしてもマイノリティだけによるオーケストラを、という切実な思いがあったのでしょう。
この財団の創設者は、ナイジェリア人とアイルランド人のハーフ、チチ・ンワノクというコントラバス奏者です。なんでも幼少のころはスプリンターとして世界大会にも出場したこともあるアスリートだったのだそうです。彼女は、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団の創設メンバーの一人でもありました。もちろん「チネケ! オーケストラ」でも首席コントラバス奏者を務めています。
指揮者のケヴィン・ジョン・エドゥセイも、もちろんマイノリティの方。ミュンヘン交響楽団と、ベルン市立劇場オーケストラの首席指揮者のポストにあります。
このCDは、彼らが2016年9月4日にロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行ったコンサートのライブ録音、収録されている「フィンランディア」と「新世界」には、それぞれ彼らのルーツに寄せる思いと共鳴するところがあるのでしょうか。
1曲目は、そのシベリウスの「フィンランディア」です。まずは、録音がなんとも乾いた音になっていて、弦楽器の響きがとても薄っぺらなのが気になります。それと、全体の演奏が盛り上がっても、なにか方向性がバラバラで音としても、音楽としても目指すものが良く見えてこないようなところがあります。ですから、この曲でよく見られる熱い思いのたぎるさまは、まず感じることはできません。
メインとなるドヴォルジャークの「交響曲第9番(新世界より)」も、なにか全体のアンサンブルがちぐはぐなような感じが付いて回ります。というより、この曲を演奏する時に絶対に外せないようなポイントで、ことごとく予想外の歌い方やパート間のバランスのとり方が出現しているのですね。たとえば、第1楽章でのフルートのソロなども、普通のヨーロッパのオーケストラだったら絶対にやらないような、ちょっとした「いい加減」なところがあったりします。
たとえば、われわれ日本人は、西洋音楽に関しては紛れもない「マイノリティ」です。そんな人が集まったオーケストラは、見事に「西洋風」の演奏を聴かせてくれます。ところが、同じ「マイノリティ」でも、この「チネケ!」はおよそ「西洋」のしきたりとはかけ離れた音楽を聴かせてくれました。「マイノリティ」の進むべき道は、本当はどちらが「正しい」のか、そんなことを考えさせられるという意味で、これは興味深いCDです。

CD Artwork © Signum Records

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by jurassic_oyaji | 2017-08-10 21:31 | オーケストラ | Comments(0)