おやぢの部屋2
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MOZART/Violin Sonatas, 1781
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Andrew Manze(Vn)
Richard Egarr(Fp)
HARMONIA MUNDI/HMU 907380



快調にアルバムをリリース、獲得した賞も数知れずという、オリジナル楽器界のスーパースター、マンゼによる、モーツァルトのソナタ集です。このジャケット、もちろんモーツァルトのシルエット(影絵・人の名前なんですってね@トリビア)があしらわれた素敵なデザインですが、そのデジパックを開いてみると、その中からは、なんと演奏者のマンゼとエガーの、ちょっと怪しげなポーズのやはりシルエットが現れたのには笑ってしまいました。もしやこの2人は・・・。
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それはともかく、「1781年のヴァイオリン・ソナタ」というタイトルのこのアルバムには、モーツァルトとは犬猿の仲だったザルツブルクの大司教ヒエロニムス・コロレードと決別して、晴れてウィーンでの自由な作曲家生活を始めたという記念すべき年の作品が中心に収められています。「作曲家」とは言ったものの、今も昔も作曲だけで食べていけるほど世の中は甘くはありません。ザルツブルクの宮廷音楽家という「定職」を棒に振って、いわば「フリー」というか、殆ど「フリーター」に近い身分になってしまったのですから、まずは糊口をしのぐための収入源を見つけなければなりません。そうしなければ、フルコースはおろか、定食すらも食べられなくなってしまいます。それは、やはり今も昔も変わらない「レスナー」への道です。そんなお得意様の1人が、ヨーゼファ・バルバラ・アウエルンハンマーというお金持ちの娘、この人はなかなか才能のあるピアニストだったらしく、しばしばモーツァルトと2人で「2台のピアノのための協奏曲」や、「2台のピアノのためのソナタ」を公開の場で演奏しています。ただ、彼女は体重と身長のバランスが著しく悪く(つまり、○ブ)、容姿に人から好ましいと思われる要素が著しく少なかった(つまり、○ス)ために、モーツァルトとは「先生と生徒」以上の関係にはならなかったという事です(彼女の方は、モーツァルトに「本気で惚れこんじゃって」いたそうですが)。そんな彼女に献呈され、世に「アウエルンハンマー・ソナタ集」と呼ばれている6曲のうち、このアルバムにはK.376K.377K.380の3曲のヴァイオリンソナタが収められています(ちなみに、ここで表記されているケッヘル番号は、年代的にはなんの意味も持たない「第1版」のものです。マンゼほどの人が、あえて「第6版」を使わなかったのは、そろそろ「新ケッヘル」が出るために、「第6版」すら意味が無くなって、「第3版」であるアインシュタイン番号と同じ道をたどるという事なのでしょうか)。
そんな、上流階級のサロンの雰囲気を色濃く持つ曲から、バロック・ヴァイオリンのマンゼとフォルテピアノのエガーは、まるでベートーヴェンあたりが備えていてもおかしくないような緊張感溢れる世界を見せてくれています。マンゼの途方もない表現力の幅は、恐怖心にもつながろうかという荒々しいものから、まるですすり泣くような繊細なものまで、殆ど予測不能に近いものがあります。それを支える20年来のパートナー、エガーとの絶妙のアンサンブル、「これは一つの楽器ではないか」と思えた場面が幾度有ったことでしょう。
K.377の第2楽章の変奏曲が、まさに絶品です。短調によって語られるメッセージの濃いこと。長調に変わるところの絶妙な味も、たまりません。そして、10年後に「魔笛」のパパゲーノのアリアとして生まれ変わる事になる(これって、「ガセビア」?)K.376の第3楽章ロンドでは、ピアノフォルテによるそのロンド主題に「モデラート」レジスターによって音色が変えられている部分があります。モーツァルトの時代にはちょっと「反則」っぽいこの処置、彼らの手にかかればなんでも許せる気になるのは、不思議なものです。

by jurassic_oyaji | 2005-09-12 21:25 | ヴァイオリン | Comments(0)