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KODÁLY/Works for Mixed Choir Vol.1
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Péter Erdei/
Debrecen Kodály Chorus
HUNGAROTON/HCD 32364



録音されたのは2004年の6月と9月、コダーイの混声合唱曲を作曲年代順に網羅しようという最新の全集です。これが第1集、全部で3集まで出る予定だとか。意外に少ないなと思われるのは、「混声」に限っているからなのでしょう。「同声」のものを含めれば、かなりの量になるはずです。
年代順という事で、最初の2曲はコダーイがまだ学生だった頃の大昔の(古代、ではありませんが)作品、「ミセレレ」と「夕べ」というその曲は、何か重苦しく暗い印象を持つものです。それは、これを演奏しているデブレツェン・コダーイ合唱団の、かなり垢抜けない歌い方によるものなのかもしれません。あまり解像度の高くない、はっきり言って「お粗末」な録音も、それを助長するものでした。
しかし、その次の曲、それから20年を経てコダーイが本格的に民謡収集を始め、その成果を盛り込んで作った多くの児童合唱曲の一つである「ジプシーがチーズを食べる」の混声合唱バージョン(さらに25年後に改訂されたもの)になったとたん、まるで別の合唱団のように生き生きとした音楽が聞こえてきたのには、正直驚いてしまいました。発声も心なしかクリアになっていますし、何よりもそのリズムのシャープなこと。このあたりが、まさに彼らの「血」が持つ、音楽に対するシンパシーのなせる業なのでしょう。
そういう意味で、このアルバムの中で最も大きな曲、そして最もよく知られている曲である「マトラの風景」こそは、そのシンパシーが遺憾なく発揮され、格別な魅力で迫ってくるという見事な仕上がりになっています。テクニックや、サウンドの完成度からいったら、おそらく日本のアマチュア合唱団の方が格段に高いものを持っているに違いありません。しかし、この演奏からほとばしり出る何物にも代え難い「味」には、そうおいそれとはお目にかかる事は出来ないはずです。指揮者のエルデイの歌わせ方は、「洗練」からはほど遠いもの、一瞬、今まで聴いてきた「マトラ」とはあまりに異なる素朴なたたずまいにとまどいすら覚えるものでした。しかし、その中に秘められた民謡を素材としたフレーズの何と美しいことでしょう。それは、歌っている人全員が持っている、このメロディに対する共感がそのまま音となって伝わって来ていると、確かに感じられるものだったのです。そして、そのメロディを彩るまわりのサブテーマ、実は、今まではこれが何とも無機的なものと感じられて、いたずらに技巧を凝らした無意味なもののようにしか思えなかったのですが、ここでは全てのものにきちんと意味を持たせることが出来ることが、はっきり分かるではありませんか。ある種のショックすら伴う、これは新鮮な体験でした。
もう1曲、バルトークでお馴染みの「青髭」に素材を求めたトランシルバニアの民謡に基づく「アニー・ミラー」も、その対話形式の対比の妙が音楽的な魅力にまで昇華されていて、聴き応えのあるものでした。
もちろん、中には「忠誠の歌」のように、ある機会のために作られた単に高揚心を煽るだけの駄作も含まれていますが、それらも包括した全ての作品を紹介し、コダーイの全体像を知らしめるという意味で、これは貴重なアルバムです。
by jurassic_oyaji | 2005-09-16 20:53 | 合唱 | Comments(0)