おやぢの部屋2
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BACH/Magnificat in E flat
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John Eliot Gardiner/
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
SDG/SDG728


最近、以前に録音していたバッハの大作を次々に録音し直しているガーディナーですが、今回はちょっと小さめの曲、「マニフィカート」です。ご存知のように、この曲にも受難曲同様、改訂された楽譜が存在しています。現在最も頻繁に演奏されるのは、その改訂稿のほう、というか、ただ「マニフィカート」と言った場合は、間違いなくそちらのことを指し示します。それに対して、改訂前のものには「第1稿」、もしくは「変ホ長調版」という但し書きが必要になります。そう、この曲は改訂の時に調性(キー)まで変えられてしまったのですね。改訂稿は半音低いニ長調になっているのです。
別に半音ぐらい違ったってそんなに違いはないのでは、と思われるかもしれませんが、それは平均律にどっぷりつかってしまった現代だから言えることです。早い話が、この曲が作られたバロック時代の横笛のフルートはニ長調で吹く時に最もよい響きがするように出来ていました。この頃のフルートは穴の数が少ないので、そのニ長調で吹く時には単に穴を1個ずつ開けていけば自然に音階が出来るのですが、半音高い変ホ長調になると、空いた穴の隣の穴をふさぐといった特殊な指使いをしないと、音階が吹けません。それは指使いが難しいだけではなく、音色そのものも濁ってしまいます。
ということで、変ホ長調の第1稿には、フルートは使われてはいませんでした。1曲だけ、「フラウト・ドルチェ」という名前の「フルート(フラウトはイタリア語でフルートのこと)」が2本使われているのですが、これは縦笛のフルート、つまり「リコーダー」で、オーボエ奏者が持ち替えで演奏していました。
さらに、これはバッハがライプツィヒに赴任した年、1723年のクリスマスのために作られたので、本来の「マニフィカート」のテキストの他に、4曲のクリスマスの聖歌が挿入されていました。しかし、その後、1730年代に、クリスマス以外の用途にも使えるようにその聖歌を「排除」して改訂を行ったのが、ニ長調の改訂稿です。第1稿は、現在の楽譜では、このようにその聖歌はきちんと場所が決められて印刷されていますが、バッハの自筆稿ではそれらは最後にまとめて書かれてあり、どこに挿入するかという指示が付け加えられていました。そういうことですから、これらを外すことも最初から想定していたのでしょうね。
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ガーディナーがこの曲をPHILIPSに録音したのは、1983年でした。その時には「普通の」改訂版を演奏していましたが、今回、2016年のクリスマス近くに、おそらく教会で行われたコンサートと前後して録音されたものは、「第1稿」によるものでした。ですから、当然聖歌が歌われています。ただ、フルートは他の曲では使われるので、この曲でのリコーダーはオーボエ奏者ではなくフルート奏者が演奏しています。
新旧の録音には30年以上の隔たりがありますから、合唱もオーケストラもほぼ全員が他の人に入れ替わっているはずです。ですから、最近聴いた「ヨハネ」「ロ短調」「マタイ」、と同様、かなりの点で変化は見られます。最も強く感じたのが、今回の合唱のおおらかさ、でしょうか。旧録音では、合唱はとても厳しい姿勢で音楽に立ち向かっていたという印象がありました。メリスマなどはそれこそ正確無比の完璧さを聴かせていましたが、そのあまりの潔癖さには、ちょっと息が詰まるほどの圧迫感がありました。しかし、今回は見事に肩の力が抜けた、聴いていて気持ちの良いものに変わっていましたね。
オーケストラも、最後の「Gloria Patri」のトゥッティで楽譜上は付点音符のところを、以前は当然この時代の習慣に従って厳格に複付点音符できっちり合わせていたものが、今回はかなりユルめのリズムに変わっています。
そして、彼らの演奏で初めて聴いた聖歌が、やはりとても気持ちの良いものでした。特に3曲目の「Gloria in exelsis Deo」の軽やかさは、今まで聴いてきたどの演奏にも見られないものでした。

by jurassic_oyaji | 2017-10-14 23:01 | 合唱 | Comments(0)