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EŠENVALDS/The Doors of Heaven
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Ethan Sperry/
Portland State Chamber Choir
NAXOS/8.579008


エリクス・エシェンヴァルズは、1977年にラトヴィアに生まれた作曲家です。ラトヴィアは、エストニア、リトアニアとともに「バルト三国」と呼ばれ、合唱が盛んな国として知られています。このエシェンヴァルズもおもに合唱のための作品をたくさん作っているまさに「売れっ子」の作曲家です。
手元には、2010年に録音されたレイトン指揮のポリフォニー盤(HYPERION)と、2015年に録音されたクリャーヴァ指揮のラトヴィア放送合唱団盤(ONDINE)がありました。それらを聴いて、この作曲家の作品には、かなり惹かれていました。もはや「アヴァン・ギャルド」と呼ばれるような音楽とは無縁になっている世代ですから、技法的にはとてもオーソドックスなものなのですが、ハーモニーの表現ツールとしてかなり細分化された音の塊を扱う、まるでリゲティのようなところがあるのが魅力的でした。
ただ、それを歌う合唱団はかなりのポテンシャルを要求されるのではないか、という気はしました。この2枚のCDで歌っている団体は、どちらも非常に高水準のテクニックと音楽性を備えていましたから、そんなエシェンヴァルズの音楽を、それぞれに方向性は異なるものの、しっかりと聴く者に使えることに成功していました。と同時に、これはアマチュアが手を出したりするのはかなり危険なのではないか、という印象も強く持ちました。
今回、2016年に録音されたNAXOS盤では、アメリカのポートランド州立室内合唱団という合唱団が歌っています。フーゾクではありません(それは「ソープランド」)。設立されたのは1975年、ポートランド州立大学の優秀な学生だけをピックアップして、このような名前のハイレベルな合唱団が結成されたのです。それ以来、ロバート・ショーやエリック・エリクソンなどの大指揮者との共演もあり、この合唱団のレベルには一層の磨きがかけられ、多くのコンクールに入賞したり、世界的なツアーを敢行したりするほどになりました。ポートランドで生まれた合唱作曲家、ローリゼンにも絶賛されています。レコーディングも数多く行っており、その中にはあのトルミス直々に指名されて録音したものも有るのだそうです。凄いですね。
とは言っても、基本的にアマチュアの合唱団ですから、エシェンヴァルズでは、果たしてこれまでの合唱団と対等に渡り合えるほどの演奏を聴くことはできるのでしょうか。なんせ、このアルバムでは収録されている4曲中の3曲までが、すでにさっきの2枚のCDに収められているのですから、ハードルはかなり高くなります。
それ以前に、この「The Doors of Heaven」というアルバム・タイトルに、ちょっと引っかかります。これは、ここで演奏されている作品のタイトルではないんですね。調べてみると、「Rivers of Light」という曲の歌詞の一部だと分かりました。「冬の夜には空一面が光の川であふれ、天国への扉が開く」とオーロラに彩られた北欧の夜空が歌われています。そんな美しい光景をイメージしたタイトルだったのでしょう。たしかに、そんなカラフルなイメージは、この中のどの曲からも受け取ることはできます。
ただ、それだけには終わらない、もっと強靭なメッセージが彼の音楽には込められています。それは、このアルバム・タイトルの元では決して伝わって来ることはありません。
そんな風に思ってしまったのは、この学生合唱団のレベルが、明らかにこれまでのCDの団体よりも数段劣っていたからです。どちらにも入っていた「A Drop in the Ocean」では、後半になるとぼろぼろになっているのがはっきり分かりますからね。ここで初めて聴くことが出来た先ほどの「Rivers of Light」も、前の2つの団体だったらもっと精緻なハーモニーが味わえるのに、と思ってしまいます。テナーに、とても目立つ悪声の人がいるんですよね。プロだったらありえないことです。
その程度のものでも構わないのでは、と思ってこのようなタイトルを付けたのであれば、それは作曲家に対する冒涜以外の何物でもありません。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.

by jurassic_oyaji | 2017-10-17 20:59 | 合唱 | Comments(0)