Lucy Crowe(Sop), Jurgita Adamonyte[](MS)
Michael Spyres(Ten)
John Eliot Gardiner/
Monteverdi Choir
London Symphony Orchestra
LSO LIVE/LSO0803(hybrid SACD, BD-A)
ガーディナーとロンドン交響楽団によるメンデルスゾーンの交響曲ツィクルスは、声楽が入っていないものだけで完結していたと思っていたら、ちゃんと「賛歌」も出してくれました。もはやこの曲は最新の目録では「交響曲」のカテゴリーには
参加を許されなくなっているのですから、原典志向を貫くのなら「出してはいけない」ものになるのですが、やはり今のガーディナーにそこまでの偏屈さはありません。
とは言っても、この曲のタイトルは「Sinfonie-Kantate Lobgesang」、普通は「交響的カンタータ」などと訳していますから、あくまで「カンタータ」の仲間だと思ってしまいますが、「Sinfonie」と「Kantate」の間にハイフンがあることを考えれば、「交響曲とカンタータが合体したもの」と解釈することもできます。実際、これは前半は紛れもなく交響曲の第1楽章から第3楽章までの形をとっていて、その後に9曲から成る「カンタータ」をくっつけたものなのですから、これを「交響曲」から外してしまったMWVはちょっと荒っぽいやり方をとったな、という印象はありますね。ですから、この曲を聴く時には、「交響曲」と「カンタータ」の両方の魅力を一度に味わえるものとして接する方が、より楽しみが広がるのではないでしょうか。
メンデルスゾーンは、この曲を1840年に初演を行った後にすぐ改訂しています。1841年に出版された時は、もちろんこの改訂稿が印刷されているので、この曲の場合その「第1稿」はほとんど話題にはなりませんが、そういうゲテモノが大好きなリッカルド・シャイーが2005年にそれを録音してくれていました。しかも、
NMLで簡単に聴くことが出来るようになっているので、どんなものなのか聴いてみましたよ。
そうしたら、なんとすでに第1楽章の5小節目でトロンボーンのテーマが変わっていて「交響曲」の部分でもかなりの改訂個所が見つかりましたが、とりあえず「カンタータ」の部分の方がより大きな改訂がなされているようですから、しっかり比較してみました。その結果、この部分の改訂箇所はどうやら5箇所ほどあるようでした。
3曲目:テノールのレシタティーヴォとアリアですが、第1稿にはアリアがありません。
6曲目:これもテノールのアリア。全く別の音楽です。最後のソプラノの一言も第1稿にはありません。
8曲目:最初のア・カペラのコラールは、第1稿にはオーケストラが加わっています。
9曲目:テノールのソロの後ソプラノのソロになりますが、第1稿ではテノールの部分だけで終わっています。
10曲目:終曲の合唱ですが、後半のフーガが第1稿ではちょっと違います。
もちろん、この改訂に関するWIKIの記述は、かなり不正確です。
メンデルスゾーンの場合、改訂を行うと元のものよりつまらなくなってしまう、という、他の交響曲における真理は、この曲の場合は全く通用しないことが分かりました。シャイーの録音の場合、合唱があまりにひどいということもあるのですが、特に6曲目のテノールのソロによるナンバーが、現行の改訂稿に比べると全く魅力が欠けているのですよね。
と、長々と改訂稿について語ってみたのは、もちろん改訂稿で演奏されている今回のガーディナー版では、この6曲目からのインパクトがとてつもないものだったからです。ここでのマイケル・スパイアーズのソロの素晴らしいこと。カンタータというよりはまるでオペラのような豊かな表現力です。そして、それに続く合唱は、たとえばさっきのシャイー盤の合唱に比べたら全く別の次元のものでした。こちらもほとんどオペラかと思えるほどのドラマティックな歌い方、8曲目のコラールでもその生々しい表現はこの曲全体のイメージまで一新させてしまうほどのものでした。
そんな合唱の豊潤さは、SACDよりもBD-A(24bit/192kHz)の方がより顕著に味わうことが出来ます。やはりこれは、SACD(DSD 64fs)では元の録音のDSD128fsは完全には再現できないからでしょう。
SACD & BD Artwork © London Symphony Orchestra