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ハイレゾって、なに?
 今回の「かいほうげん」では、少し紙面が余りそうなので、久しぶりに私のエッセイを載せてみることにしました。テーマは「ハイレゾ」、私が体験したことが中心になっていますから、まあ読んでみてください。4ページ分ですから長いです。

■身近になったハイレゾ
 ハイレゾというと、普通に生活している分にはなんの関係もないような気がしますが、実は世の中ではすでにかなりのところに浸透してきています。早い話が、ニューフィルの定期演奏会でも、このところ毎回ハイレゾで録音を行っています。ホールでは三点吊りのマイクロフォンをステージの上に設置して、それをCD-Rに録音してくれていますが、バックアップとしてそれと同じ音声信号をホールとは別に自前でハイレゾのレコーダーを持ち込んで録音しています。
先日の演奏会では、ホールの機材がCD-R1枚で80分までしか録音できないところに最後の交
響曲の前に指揮者が少し時間を取ってその曲に関するレクチャーを15分ぐらい行いましたから、その後1時間ちょっとの交響曲とアンコールまでを演奏したり、その間の拍手や指揮者の出入りの時間を含めると、全ての演奏が終わったころには80分を超えてしまいました。そこで、最後のアンコールの途中で録音は終わってしまっていたのです。そんな時でも、このバックアップがあったので問題なく団員頒布用のCDを作ることが出来ました。
そのレコーダーで録音したハイレゾ音源は簡単にCDのフォーマットにダウンコンバートできますから、それをCDには使います。そして、元のハイレゾの音源は、公式サイトのサーバーにアップロードして、どなたでも入手できるようにしています。
 アマチュアでもそんなことができるぐらいですから、今の時代のプロの録音の現場では、40年近く前に制定されたCDのフォーマットは、すでに標準ではなくなっているのです。クラシックに限って言えば、おそらく現在新録音としてリリースされているCDの大多数のものは、録音時にはハイレゾのフォーマットが使われているはずです。そして、映像のパッケージ、DVDやブルーレイでは、すでにハイレゾが標準的な規格になっています。

■なぜハイレゾか
 それには、しっかりとした理由があります。1982年にCDという形で華々しく世の中に登場したデジタル録音(デジタル録音自体はその前から存在していました)は、音質ではそれ以前のアナログ録音には及ばないことが次第に分かってきたからです。CDに採用されたフォーマットは、デジタル録音といってもPCM(Pulse Code Moduration)という、時間軸に沿ってアナログ録音の波形を細かく切り取り、その時の音の大きさを数値化したものです(このような多分に情緒的で不正確な表現は出来るだけ現象を分かりやすくするための方便だとお考えください)。切り取った時の細かさが「サンプリング周波数」、音の大きさが「量子化ビット数」と呼ばれる単位で表わされます。当然のことですが、それらの数値が大きいほど、より元の波形に近いものになりますから、実際の音もより元の音に近づきます。
 CDの場合、その量子化ビット数は16bit、サンプリング周波数は44.1kHzでした。ここでサンプリング周波数に注目すると、それは音を1秒間に44,100回切り刻むということになります。一方、例えば純音の場合、左のようにサインカーブでその様子が表示されることがありますが、それは基点から上に上って最高値となり、さらに下に下ってきて最低値となりまた起点に戻るという「サイクル」を一つの単位として数えます。周波数の単位であるHz(ヘルツ)は、かつては「c/s(サイクル毎秒)」と呼ばれていた通り、1秒の間に何個の「サイクル」が入るかをあらわすものです。ですから、一つの「サイクル」を表現するには、上限と下限の2つの点の場所を指定しなければいけません。つまり、例えば20,000Hzの音をデジタルで表現するためには、その倍の40,000回切り刻む必要があるということです。逆の言い方をすれば、サンプリング周波数が44.1kHz(44,100Hz)の場合には、その半分の22.05kHzの周波数の音以上は表現できないということになります。実際には、それ以上周波数が高い音があるとエラーが発生するので、この場合は20kHzより高い音は最初からフィルターでカットされています。
 面倒くさいことを書きましたが、要するにPCMの場合は、サンプリング周波数の半分以下の周波数の音しか録音できない、ということだけを知っておいてください。そして、CDのフォーマットでは20kHz以上の高い音は全く録音されていない、ということも。
 もっとも、人間の耳が認識できる周波数は、ほぼ20Hzから20kHzの間だ、とも言われています。CDのフォーマットはその範囲内なのだから、なんの問題もないのだ、というのが、CDが開発された時の「大義名分」でした。あのカラヤン先生も、それで太鼓判を押してくださったのです。ところが、実際にその音を聴いてみると、アナログ録音には確かにあったはずの繊細さとか空気感といったものが失われていることに、人々は気づきはじめました。そして、その原因はカットされてしまった20kHz以上の音にあるということも分かって来ました。それに伴って、2000年頃からは、録音スタジオでは24bit/96kHzか、それ以上のPCMが使われるようになってきます。このように、ビットレート、サンプリング周波数のどちらか一方か、あるいは両方の数値がCDの規格である16bit/44.1kHzよりも、大きな状態で録音されたものが、「ハイレゾ(High Resolutionの略語)」と呼ばれるのです。当然ですが、それはCDで再生することはできません。

■DAT、衛星放送によるハイレゾ
 そういう意味で、最初に登場したハイレゾの録音システムはDAT(Digtal Audio Tape)ではないでしょうか。CDをそのままデジタルコピーされることを防ぎたいというCD業界の姑息な事情で、16bit/48kHzというまさにハイレゾのフォーマットが1987年に採用されました。そのフォーマットはNHKが1989年に衛星放送(BS)を開始した時にも、音楽用のBモードとして使われることになります。しかし、2000年にアナログからデジタルに変わった時に(アナログ放送は2011年まで継続)、音声フォーマットは圧縮音源であるAAC(Advanced Audio Coding)に変わってしまいました。ですから、現在の衛星放送の音は、決してハイレゾとは言えないものになっています。これは、同じソースを市販のDVDなりBDと比べてみると、誰でもわかります。BDの場合、最高のフォーマットは24bit/192kHzですからね。

■DVDによるハイレゾ
 オーディオ用のパッケージとして最初にハイレゾが取り入れられて商品化されたのはそのDVDでした。最高で24bit/192kHzまでのハイレゾに対応し、従来の2チャンネルステレオとともに5.1サラウンドなどのマルチチャンネルも再生可能な規格が1999年に統一されて多くのソフトも供給されましたが、現在ではもはや新しいソフトのリリースは全くありません。

■SACDによるハイレゾ
 それは、同じ1999年に規格化されたもう一つのハイレゾ対応のパッケージ、SACD(Super Audio CD)との競争に敗れたからです。こちらは見た目もCDと同じで、ほとんどの製品は普通のCDも聴けるハイブリッド・タイプですし、再生機器も積極的に発売されましたからより浸透しやすかったのでしょう。
 しかし、SACDの場合は、DVDオーディオと同じ2チャンネルのハイレゾ音源とサラウンド用のマルチチャンネル音源が収録されていますが、それはデジタル録音でもPCMではなくDSD(Direct Stream Digital)という、別の形でデジタル化された音源が使われていました。フォーマットも1bit/2.8MHzという、PCMとはけた違いに高いサンプリング周波数になっています。その原理は、デルタ・シグマ変調と言って、正直非常に難解なものなのですが、ざっくり言ってしまうと、PCMのように、ミクロ的に見ると階段状になっている波形を、次の階段との差(デルタ=Δ)を前の階段に加える(シグマ=Σ)ことによって、波の形を滑らかにする、というものです。
 PCMは、時間軸に沿った直線的なデジタル化(そのため、「リニア・PCM=LPCM」とも呼ばれます)ですから、途中で切ったりつなげたりという編集作業が容易に行えます。サンプリング周波数を変えるだけで、テンポを変えるようなことさえ可能です。それに対してDSDは、そのようなフィードバックが入っているので、原理的に編集は不可能だというデメリットがあります。ですから、普通は例えば24bit/352.8kHz(CDの8倍のサンプリング周波数)といった超ハイレゾのPCM(DXD=Digital eXtreme Definitionと言います)にいったん変換して編集作業を行い、その後DSDに戻すということを行っているようです。

■ブルーレイによるハイレゾ
 PCMでのハイレゾのパッケージも、頓挫したDVDオーディオのあとを継ぐような形で、メディアをBD(ブルーレイ・ディスク)に変えて開発されました。それがブルーレイ・オーディオです。これは一部では「Pure Audio」というネーミングで、多くのレーベルで採用されています。こちらの場合も最高のフォーマットは24bit/192kHz、サラウンドも5.1だけではなくさらにチャンネルの増えたフォーマットにも対応できるようになっています。再生も、普通のブルーレイ・プレーヤーがそのまま使えます。

■インターネットによるハイレゾ
 しかし、ハイレゾの音源として最も出回っているのは、このようなパッケージではなく、インターネット配信によって直接入手できるハイレゾの音楽ファイルでしょう。すでにCD以下の音質の非可逆圧縮音源(mp3やAAC)での配信はかなり広まっていますが、ハイレゾのデジタルデータは、例えば24bit/96kHzのPCMの場合、1時間の音楽では約2GBという巨大なものになってしまいますから、それほどの広がりはありませんでした。しかし、ブロードバンドの普及や、音質を変えずにPCMデータのサイズを半分近くに出来る可逆圧縮(FLAC=Free Lossless Audio Codec)の開発によって、そのような大きなファイルでも容易にダウンロードできる環境が整ったため、このような販売方法が可能になってきました。
 最近ではそのような音楽配信の躍進で、CDなどの売り上げは低迷を続けています。SACDでも同じことで、それまでSACDを販売していたレーベルでもCDだけになってしまうケースも多くみられるようになってきました。インターネットで配信されるハイレゾの音源の再生に関しても、多くの再生機器が登場し、ノウハウも蓄積されてきましたから、将来的にはこの形が主流になっていくのではないでしょうか。なによりも、DSDでは、SACDに採用されている1bit/2.8MHz(このサンプリング周波数はCDの64倍なので「64fs」と呼ばれます)の上位フォーマットである128fs(1bit/5.6MHz)あるいは256fs(1bit/11.2MHz)による音源は、現在はインターネット配信以外で入手することはできませんから。

■PCMとDSDとの違い
 PCMとDSDでは、微妙なところで味わいが異なるとされています。ただ、単に解像度という点で比較すると、24bit/96kHzのPCMと、64fsのDSDが同等だと言われています。つまり、パッケージでは、ブルーレイ・オーディオによる24bit/192kHzの方がSACDよりも解像度が高いことになりますし、個人的な印象ですが、同じ音源でこの2者を比べてみると、明らかにブルーレイ・オーディオの方がより精緻な音に聴こえます。もしかしたら、CDの規格を制定した時に間違いを犯したように、SACDもハイレゾとして聴くには不十分なフォーマットで妥協していたのかもしれませんね。

■終わりに
 正直な話、普通に音楽を聴く分にはCDのフォーマットで十分です。再生するオーディオ機器も、実際にハイレゾの配信音源をきちんと再生するための手順は、単なる音楽愛好家にとってはハードルが高いことは否めません。それでも、しかるべき再生手段を整えて、ハイレゾの音を体験してしまうと、確実にCDの音では物足りなくなってしまうことは間違いありません。無理にはお勧めしませんが、現在のデジタル録音が到達した音を、機会があれば味わってみても損にはならないはずですよ。
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by jurassic_oyaji | 2017-11-15 19:53 | 禁断 | Comments(2)
Commented by Hippo at 2017-11-25 07:41 x
今日は。いつも楽しく拝見させていただいております。

少し気になったのですが、

「16bit/48kHzというまさにハイレゾのフォーマットが1987年に採用」

とありますが、JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)の定義では、

・44.1kHz/16bit : CDスペック
・48kHz /16bit : CDスペック

となっています。なのでDATはハイレゾではないと思います(一部機種に96kHzや24bitに対応していましたが)。

ドイツグラモフォンの4Dレコーディング(1991年たぶん)では、21bit(後に24bit)で録音を始めていたような記憶があります。
「人間は22ビットと23ビットの変換の違いを知ることができる」というのが理由だったと思います。

個人的にはADコンバータの下位2~3bitなんて信用できない(マイコンでの話)という感覚でしたので、16bitの精度の音源を製品にするのに16bitのADコンバータを使うの?って思っていました。オーディオ用のADコンバータは高品質なのでしょうね。

ではでは。
Commented by jurassic_oyaji at 2017-11-25 10:15
Hippoさん、いつもありがとうございます。
もろもろの情報、参考にさせていただきます。