おやぢの部屋2
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SCHUBERT/Symphony No.8
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Peter Gülke/
Brandenburger Symphoniker
MDG/901 2053-6(hybrid SACD)


シューベルトの「交響曲第8番」という珍しいタイトルのアルバムです。いや、その曲であれば、「ザ・グレイト」というサブタイトルのついた、シューベルトの最後のハ長調の交響曲のことなのではないかと普通は誰でもが思いますよね。しかし、ことレコード業界においては、「交響曲第8番」はその前に作られた前半の2つの楽章しか完成されていない、いわゆる「未完成交響曲」を指し示すものだと決まっているのですよ。これはもちろん、かつてはそれが「常識」だった時代の名残です。レコード業界が誕生した時点ではまだ「未完成=8番、グレイト=9番」だったのですが、その後の研究によってこの2曲はそれぞれ1つずつ番号が繰り上がってしまいました。それに合わせて、演奏家たちはしっかり呼び名を変えたのに、レコード業界は決してそれに従うことはなく、大昔の呼び名にしがみついていたのです。
そのような大きな力の元では、良心を持った人たちは不本意でもそれに従うしか、道はありません。許されたのは、「第8(9)番」というみっともない表記だけだったのですからね。
ところが、このアルバムはどうでしょう。そこにはしっかり「Symphony No.8 C major(The Great)」という文字が躍っているではありませんか。もしかしたら、こんなタトルが付けられたCDにお目にかかったのは初めての体験だったかも。これは「画期的」と言っても差し支えないほどの出来事です。
同じジャケットで指揮者の名前を見て、そんな「快挙」の訳が分かりました。ここでは、あのペーター・ギュルケが指揮をしていたのですよ。「あの」と言われても何のことかわからないかもしれませんが、このギュルケさんは指揮者というよりも、音楽学者として有名な方でした。つまり、彼は「ベートーヴェンの交響曲第5番の第3楽章に、ダ・カーポを入れた人」として、世界中で有名になったことがあったのです。
そんな、大作曲家の楽譜に手を入れることなんてできるのか、と思われるかもしれませんが、そもそも印刷されている楽譜は作曲家が書いたものとは同じではない場合の方が多いのです。そこで、自筆稿や初演の時に使われたパート譜などを丁寧に調べて、最も作曲家の意図を反映した「原典版(クリティカル・エディション)」が作られるようになりました。ベートーヴェンの交響曲について、最も初期に全曲完成した原典版がかつてのドイツ民主共和国(東ドイツ)のペータース社が刊行した「ペータース版」ですが、その校訂に携わったのが、このギュルケさんたちなのです。ギュルケさんはご自分が担当した交響曲第5番で、先ほどのような、斬新な見解が反映された楽譜を作ったのです。普通は第3楽章はスケルツォ-トリオ-小さなスケルツォという構成で、そのままアタッカで第4楽章につながっているような楽譜であったかと思うのですが、ギュルケさんはそのトリオが終わったところで、もう1度楽章の頭までもどって演奏するように指定していたのです。それ以前にもそういうことをやっていた指揮者はいましたが、それが実際に楽譜として出版されたのはこれが初めてでしたから、大きな話題になりましたね。
ギュルケさんはその後ブライトコプフ社でのシューベルトの原典版の校訂にも携わります。「交響曲第7番」がその成果です(「8番」の方は、ペータース版のベートーヴェンの共同校訂者、ペーター・ハウシルトが校訂したものが出版されています)。
1934年生まれ、83歳になるギュルケさんは、指揮者としてはもはや「巨匠」と呼ばれるような年齢に達しています。しかし、2015年から首席指揮者を務めている1810年に劇場付属の楽団として創設されたという由緒あるオーケストラ、ブランデンブルク交響楽団を指揮している時には、なんとも軽いフットワークを発揮して、余計なものをそぎ落としたすっきりとしたシューベルト像を再現していました。このオーケストラは弦楽器も少なめなようで、管楽器との程よいバランスも聴きものです。

SACD Artwork ©c Musikproduktion Dabringhaus und Grimm

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by jurassic_oyaji | 2017-12-06 00:16 | オーケストラ | Comments(0)