おやぢの部屋2
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GOLD
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The King's Singers
SIGNUM/SIGCD 500


公式には1968年に結成されたイギリスの6人組のヴォーカル・グループ「キングズ・シンガーズ」は、来年の2018年には創立50周年を迎えることになります。その記念に2016年10月から2017年2月にかけて録音されたのが、この3枚組のアルバムです。「金婚式」という意味合いでしょう、そのタイトルは「ゴールド」、さらに品番が「500」というのですから、もうすべてがお祝いモードですね。あんまりはしゃぎ過ぎて、メンバーの間柄が冷たくなってしまうことはないのでしょうか(それは「コールド)。
50年の間には何度も何度もメンバーが変わっているこのグループですが、2016年の9月にカウンター・テナーがデイヴィッド・ハーレーからパトリック・ダナキーに替わった時点で、全メンバーが21世紀になってからの加入者となりました。そういう意味で、「長い結婚生活」ではなく、「新しいパートナーとの再出発」的な意味も、このアルバムには込められているのではないでしょうか。
3枚のCDにはそれぞれ「Close Harmony」、「Spiritual」、「Secular」というタイトルが付けられており、このグループのレパートリーの根幹をなす3つのジャンルの曲が演奏されています。「Close Harmony」は、元々は「密集和音」という音楽用語ですが(対義語は「開離和音(Open Harmony」)、ここでは音域が狭いのでそのようなハーモニーを使わざるを得ない無伴奏男声合唱のことを示す言葉として使われています。もっとも、このグループはカウンター・テナーで女声のパートを歌うことができるので、やっていることは「Open Harmony」なのですが。
ここでは、彼らのライブでの定番の、ポップスや民謡などを編曲したものが歌われています。今回新たに編曲されたものもありますが、この中の2曲のビートルズ・ナンバーは、1986年に録音された全曲ビートルズのカバーのアルバムで使われたものと同じ編曲で歌われていました。「And I Love Her」は、その録音時にテナーのメンバーだったボブ・チルコット、「I'll Follow the Sun」は、その前任者のビル・アイヴズの編曲です。30年前に録音されたこの2曲を、まさに「セルフ・カバー」である今回の新録音と比べてみると、その表現には全くブレがないことに驚かされます。彼らの伝統がしっかり演奏上の細かいところまで受け継がれつつ、メンバーチェンジが行われていたことに、改めて気づかされます。
とは言っても、ソロのパートではそれぞれのメンバーの個性の違いはしっかりと分かります。特に、30年前のテノールだったチルコットの悪声は、現メンバーの日系人、ジュリアン・グレゴリーでは完全に払拭されていました。
「Spiritual」では、広い意味での宗教曲が歌われています。その中に、男声合唱の定番、プーランクの「アッシジの聖フランチェスコの4つの小さな祈り」がありました。これは、テナー、バリトン1、バリトン2、ベースという4つの声部の曲ですから、彼らの場合はカウンター・テナーのパートを除くと残りの4人だけで完璧に歌える曲ですね。ということは、テナーを歌っているグレゴリーくんの声がはっきり聴こえてくるということになります。6人で歌っている時にはちょっと目立たない声でしたが、ここではとても芯のある声のように聴こえました。歴代のメンバーの中では最高のテナーだと思っているビル・アイヴズには及びませんが、それに次ぐ人材なのではないでしょうか。
3枚目の「Secular」は、文字通り世俗曲ですが、宗教曲以外の合唱曲のレパートリーということでしょう。お得意のマドリガルなどに交じって、1987年に武満徹に委嘱した「Handmade Proverbs(手づくり諺)」が入っていたのには驚きました。同じ年に日本で初演された曲ですが、もしかしたらこれが初録音なのでしょうか。いかにも武満らしいハーモニーが素敵です。
このアルバムを携えてのワールド・ツアーがすでに始まっています。丸1年以上をかけて行う大規模なツアーですが、あいにく日本でのコンサートはないようですね。

CD Artwork © Signum Records

by jurassic_oyaji | 2017-12-07 20:10 | 合唱 | Comments(0)