Grete Pedersen
Nowegian Soloists' Choir
Ensemble Allegria
BIS/SACD-2251(hybrid SACD)
ほぼ毎年ニューアルバムをリリースしているペーデシェンとノルウェー・ソリスト合唱団の今年の新譜は、ちょっと今までとは様子が違っていました。これまでは、何かしらのテーマを中心にして、多くの作曲家の作品を集めたという「コンセプト・アルバム」が主体だったのですが、今回はバッハのモテット集という、ベタな選曲でした。しかも、前々作の中にあった音源をそのまま使いまわすという「手抜き」まで行われているのですから、ちょっと心配でご飯も食べれなくなってしまいます(それは「
ら抜き」)。
つまり、ここでは収録曲をまとめて一度に録音したのではなく、一昨年、昨年、今年と3回に分けて録音しているのです。その一昨年の分が、すでに
こちらのアルバムに含まれていたのです。
と、現象的には許しがたいことをやってはいても、このアルバムではそれがしっかり全体の中に納まっている、という結果にはなっているので、それはそれで許せるというのが面白いところです。つまり、同じ音源でも、コンテクストが変わると全くその役割が変わってくる、ということを、現実に体験できたものですから。
バッハの「モテット」に関しては、いったい何曲あるのかという問題はありますが、ここでは普通に「モテット」と言われているBWV225からBWV230までの6曲に、BWVではそのあとに記載されているBWV118を加えて7曲が演奏されています。さらに、伴奏の編成もはっきりしてはいないので、ここでのペーデシェンは、3回のセッションでそれぞれ異なった編成のアンサンブルを協演させていました。
アルバムの曲順では、まず2016年のセッションで録音された「Komm, Jesu, komm(来ませ、イエスよ、来ませ) BWV229」、「Fürchte dich nicht, ich bin bei dir(恐るるなかれ、われ汝とともにあり) BWV228」、「Der Geist hilft unser Schwachheit auf(み霊はわれらの弱きをたすけたもう) BWV226」の3曲が演奏されます。これらは全てソプラノ、アルト、テナー、ベースの4パートの合唱が2つ向かい合って歌う二重合唱の形で作られたものですが、その伴奏はオルガンにチェロとヴィオローネという編成の通奏低音だけになっていて、さらにピッチがほぼ半音低くなっています(A=415)。ですから、ここではほぼ合唱の裸の姿が披露されることになります。
それに続いては、2015年のセッションと2017年のセッション(これはモダンピッチ)のものが交互に演奏されますが、その前半の「Jesu, meine Freude (イエス、わが喜びよ)BWV227」と「Lobet den Herrn, alle Heiden(主よ讃えよ、もろもろの異邦人よ) BWV230」では、通奏低音の他にコラ・パルテ(合唱のパートと同じメロディを重ねること)で弦楽器が加わっています。そうなると、合唱は弦楽器に覆われることになり、豊かな音色が醸し出されるようになります。
そして、最後の2曲、「O, Jesu Christ, meins Lebens Licht(おお、イエス・キリスト、わが生命の光) BWV118」と「Singet dem Herrn ein neues Lied(主に向かいて新しき歌をうたえ) BWV225」では、弦楽器の他にオーボエやファゴットが加わって、さらに華やかなサウンドとなっています。BWV118などは、前奏や間奏など、合唱が入っていない部分までありますから、さらに充実したサウンドになります(お葬式の音楽なんですけどね)。
そんな感じで、以前はニューステットの作品との対比として使われていたものが、ここでは見事に同じ合唱が伴奏の形態が変わることによって、どれだけの違いが出てくるかということを見せてくれていました。
ただ、「同じ合唱」とは言っても、この合唱団のことですからメンバーは3年の間には大幅に変わっているはずです。それなのに、ブックレットではそれらを区別せずに、「1度でもこれらのセッションに参加したことのある人」を全員並べています。これはちょっと不親切。
でも、なんと言ってもこの合唱のメンバーはそれぞれにレベルが高く、ちょっと「普通の」合唱団が歌っているバッハのモテットとは次元の違う素晴らしい演奏を繰り広げてくれていますから、ぐだぐだと文句を言う必要なんか全然ないのですけどね。
SACD Artwork © BIS Records AB