おやぢの部屋2
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Mozart The Supreme Decorator



D.Montague, E.Futral, M.Cullagh(Sop)
Charles Mackerras/
The Hanover Band
OPERA RARA/ORR 232



「モーツァルト、最高の装飾家」という、まさに来年のモーツァルト・イヤーに向けてのもろ企画アルバムです。もちろん、これはこういうことが大好きな指揮者のマッケラスが自ら監修にあたっており、これからうんざりするほど出てくるであろうどこぞの国の「○○に良く効くモーツァルト」などという便乗企画とは根本的に異なる次元の志を持ったものであることは、言うまでもありません。
モーツァルトが他の作曲家の作品をどのように「装飾」したか、という様子を実際に音で体験してもらおうという企画、しかしここで実現されているのは、単に曲を並べただけという安直なものではありませんでした。マッケラスは、ライナーノーツの中で、そのような曲、あるいは装飾が出来上がる課程でモーツァルトと関わりがあった人物たちのことを細かく述べてくれています。それによって、モーツァルトの素顔が自ずと浮き出てくる、という巧妙な仕掛けが、ここには施されているのです。その人物の1人が、当時ロンドンで活躍していた大バッハの末子、ヨハン・クリスティアン・バッハ、21歳年上のこの作曲家は、モーツァルトが唯一尊敬した同業者として、彼の手紙にはたびたび登場しています。そのバッハの「シリアのアドリアーノ」というオペラからのソプラノのためのアリアが、まずこのアルバムに登場します。最初にダイアナ・モンタギューによって歌われるのがオリジナルのバッハ・バージョン、そして、そのあとに続くのがマジェラ・カラフとエリザベス・フラトルによって歌われれう2通りのモーツァルト・バージョンです。ここでモーツァルトは、元からあったゆったりとした前奏をバッサリカットして、全く別の快活な部分を新たに挿入、それを導入として本来のアリアに入るという、実にかっこいい編曲を行っています。もちろん、フレーズの至るところにはセンスの良い「装飾」が施され、目の覚めるようなカデンツァが彩りを添えます。
そして、このようなバージョンを作るきっかけを与えたのが、もう1人の登場人物、その当時の恋人アロイジア・ウェーバーでした。健康食品も時としてお肌に悪いもの(それは「アロエじわ」)。やがてはこのアロイジアの妹であるコンスタンツェと結婚することになるのですが、この頃はオペラ歌手であった彼女に夢中だったモーツァルトの、「バッハさんのこんな曲があるんだけど、歌ってみない?君が歌えばもっと素敵になるように、ぼくがちょっと手を入れてみたんだ」みたいな、幸せそうな様子が目に浮かんではきませんか?
実は、このアルバムのコンセプトはもう一つあって、それは「パクリ屋としてのモーツァルト」。先ほどのクリスティアン・バッハの曲からアイディアを借りて、それを彼なりに展開させたという実例が2つほど紹介されています。そのうちの一つが、フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェロを独奏楽器としたコンチェルタンテの形を持つ「後宮」の中のコンスタンツェのアリアですが、確かにその前に聴かれるバッハの「シピオーネの慈悲」というオペラの中の曲とそっくりのアイディアが見られます。もちろん、これは敬愛する作曲家の良いところを積極的に自らの語法の中に取り入れるという、ポジティブな意味での「パクリ」ととらえるべきでしょう。
3人のソプラノは、いずれも清楚な歌い方で好感が持てます。私としては芯のある響きで一歩ぬきんでているフトラルの声がベストでしょうか。久しぶりに聴いたハノーヴァー・バンドの柔らかい響きともども、ホールの空気感まで見事に収めることに成功した録音の素晴らしさも光っています。
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by jurassic_oyaji | 2005-10-10 19:35 | オペラ | Comments(0)