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BEETHOVEN/Symphonies Nos. 6, 7, 8
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Rafael Kubelik/
Orchestre de Paris
Wiener Philharmoniker
The Cleveland Orchestra
PENTATONE/PTC 5186 250(hybrid SACD)


クーベリックが1970年代にDGに録音したベートーヴェンの交響曲全集は、元々はその頃のオーディオ界の最新技術であった「4(フォー)チャンネル(Quadraphonic)」で録音されていたのだそうです。確かに、あのころは誰もが「これからは4チャンネルだ」と思い込んでいたのではないでしょうか。包み込まれるようなサウンドに、父親はぐっすり(それは「とうちゃん寝る」)。ただ、結局はその何種類かの再生方式を巡っての醜い覇権争いの末、消費者にはそっぽを向かれ、一過性のブームで終わってしまっていたのでした。
レーベルでも、時代の流れに乗り遅れまいと、しっかりと4チャンネルでの録音の体制を作り上げ、全てその方式で録音を行っていた時期があったのでしょうね。ただ、実際にそれらが4チャンネルのソースとして市場に出回ることはほとんどありませんでした。もちろん、このクーベリックのベートーヴェンも、普通の2チャンネルステレオのLPでしかリリースされてはいなかったはずです。
例えばあのカラヤンは、1970年から1978年にかけてEMIから20枚以上の4チャンネルのLPをリリースしていますが、DGからのものは1枚もありません。
2002年から活動を始めたこのPENTATONEというレーベルは、PHILIPSというオランダのレーベルが新録音をやめることになり、そのために解雇された人材が集まって作ったSACDに特化したレーベルです。それ以前、1998年に、やはり元PHILIPSのエンジニアが作ったPOLYHYMNIAという録音チームとは密接な関係にあり、当初はこの時代に録音されたPHILIPSの4チャンネルの録音を、サラウンドSACDとしてリリースしていました。後に新録音も開始、さらに今では同じ系列となったDGの4チャンネルの音源も、同じようにSACD化するようになっています。つまり、かつて録音されても日の目を見ることのなかった数多くの4チャンネルの音源が、四半世紀を経てSACDという媒体で初めて世の中に出ることになったのですね。
個人的には、今まではSACDはもっぱらピュア・オーディオの対象でしたから、サラウンドには全く興味はありませんでした。ところが、ひょんなことからSACDのサラウンド・トラックを聴ける環境が整ってしまったので、そんな「4チャンネル」を実際に体験出来ることになりました。そして、そこにはピュア・オーディオとは別の面での魅力が潜んでいることが分かりました。
この、PENTATONEのリマスターとしては3番目のアルバムでは、2枚組で6番、7番、8番が収録されていました。そのうちの6番ではユニヴァーサルからシングル・レイヤーで2チャンネルだけのSACDが出ていたのでまず「ステレオ」でそれを比較してみると、やはりDGのサウンドは見事にPHILIPS寄りの繊細なものに変わっていました。もう、ここのエンジニアは体の芯までPHILIPSの音がしみ込んでいるのでしょうね。
それはそれで楽しめるとして、肝心のサラウンドでの再生を試してみると、ステレオではあまりよく分からなかった、録音会場の違いがとてもはっきり分かるようになっていました。6番はパリ管の演奏なのですが、録音はサル・ワグラムというだだっ広い空間で、余計な残響がないので録音スタジオとしてよく使われていたところです。ですから、ここではホールトーンのようなものはほとんど感じられません。ところが、ムジークフェライン・ザールでのウィーン・フィル(7番)と、セヴランス・ホールでのクリーヴランド管(8番)の場合は、もうビンビンと客席からの反響がリアスピーカーから聴こえてくるのですね。特に、8番の第2楽章では、木管楽器のパルスがそのままエコーとして半拍近く遅れてはっきり聴こえてくるのですよ。
この部分をステレオで聴いてみたら、そんなディレイ感は全くありませんでしたから、2チャンネルのマスターではリアの成分をきっちりカットしてあるのでしょう。確かに、これはサラウンドで聴かないと単に邪魔になるだけのものですからね。でも、元の録音にはそれがしっかり入っていて、ここで初めて聴けるようになったというのは、ちょっとした感動でした。

SACD Artwork © Pentatone Musik B.V.

by jurassic_oyaji | 2017-12-19 23:11 | オーケストラ | Comments(0)