おやぢの部屋2
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PÄRT/Lamentate

The Hilliard Ensemble
Alexei Lubimov(Pf)
Andrey Boreyko/
SWR Stuttgart Radio Symphony Orchestra
ECM/476 3048
(輸入盤)
ユニバーサル・ミュージック
/UCCE-2049(国内盤 11/23発売予定)


「テート・モダン」という現代美術館がロンドンにあります。イギリス最大の規模を誇るものですが、なんでも元々は発電所だった建物をそのまま使っているという、ユニークな設備なのだそうです。そこの「タービン・ホール」という、以前は発電用の「タービン」があった場所に、2002年にインドのボンベイ(現在は「ムンバイ」と言うのだそうですね)に生まれた世界的な彫刻家、アニッシュ・カプーアの「マルシャス」という作品が建造されました。そう、「製作」などという言葉ではとても言い表せない、まさに「建造」という言い方がピッタリするような巨大な作品が、この、かつてはタービンが設置されていた巨大な空間に出現したのです。長さ155メートル、高さ35メートル、スチールの骨組みに赤い塩ビのシートを貼り付けたこのオブジェは、長いトンネルの両端にまるでブラックホールへの入り口のような形をした開口部が一つは正面、一つは真下を向いて付いているという構造になっています。それを頭に巻き付けると「ターバン」になりますね。

この作品を前にして、ペルトはとてつもない衝撃を受けたと語っています。曰く「最初の印象は、まるでタイム・ワープして未来と現在が同時に見られるように、死んだ自分が生きている自分の肉体の前に立っている、というものだった。その瞬間、私は死ぬためにはなんの準備も出来ていないことに気づき、私に残された時間で何を成し遂げることが出来るのか、自らに問いたい気持ちになったのだ。(例によって、業者のインフォとは微妙に異なる表現であることに、ご注目下さい)」
このオブジェと、作者のカプーアへのオマージュとして作られた「ラメンターテ」は、ピアノ協奏曲という形をとっていて、全部で10の部分から成っています。最初の部分で、バスドラムの壮大な咆哮に乗って現れる金管のコラールは、この壮大なオブジェをイメージしたものなのでしょうか。次の「Spietato」では、普段のペルトではあまり味わうことのないような、半音階の連続に続く切迫した場面が繰り広げられます。しかし、その後の弦のフラジオレットやビブラフォンを背景にしたピアノソロでは、いつもながらの静謐なペルトが登場して、聴くものを安心させてくれます。リュビーモフの、まるで一つ一つの音を慈しんで魂を与えるような演奏には、思わず引き込まれてしまいます。そんな、落差の大きい表現も、この曲の特徴でしょう。最後の方の「Lamentabile」で聞こえてくる弦楽器もとても美しいもの、日頃首席指揮者ノリントンのもとで強いられている「ノンビブラート」の鬱憤を晴らすかのような、この甘い響きは、心を打ちます。
この曲の初演は、もちろんこの「タービン・ホール」で行われました。その時の写真がライナーに掲載されていますが、それは、この空間と見事にマッチした得難いイベントだったことでしょう。空間芸術である彫刻と、時間芸術である音楽との、希有なコラボレーションがそこでは確立していたはずです。もしかしたら、オーケストラの音はこのオブジェの中を通って、観客の後ろからも、少し時間をおいて聞こえてきたのかもしれませんね。そんな体験ができるサラウンド録音なども、聴いてみたいものです。
カップリングは、「エスペリオンXXI」のジョルディ・サヴァールの委嘱で作られた無伴奏合唱のための「ダ・パーチェム・ドミネ」。ドローンの上に音を置いていくという、もちろん中世の音楽を現代に蘇らせたペルトのルーティン・ワーク、アンサンブルではなく、大人数の合唱でも聴いてみたい気がします。
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by jurassic_oyaji | 2005-10-19 22:14 | 現代音楽 | Comments(0)