おやぢの部屋2
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MENDELSSOHN/Der Onkel aus Boston

Kate Royal(Sop)
Carsten Süß(Ten)
Helmuth Rilling/
Gächinger Kantorei Stuttgart
Bach-Collegium Stuttgart
HÄNSSLER/CD 98.221



ヘルムート・リリンクは1933年生まれだそうですから、もうすでに70歳を超えていたのですね。今でこそ、バッハのカンタータを全曲録音しようとしている人はたくさん出てきましたが、彼が世界初のカンタータ全集を録音した時には、まさに「偉業」と讃えられたものです。もちろん、この偉大な業績は、それ以後にどんな全集が現れようが、バッハ演奏史においては永遠に語り継がれていくことでしょう。最近のオリジナル楽器による演奏家の活躍なども視野に入れて、彼自身の演奏スタイルも柔軟に変えていくという、フットワークの自在さも見逃せません。
「シュトゥットガルト・バッハ・アカデミー」の主宰者としてのリリンクは、最近ではバッハに限らない、幅広い作曲家の作品を取り上げ、その事によってバッハの裾野の広さを世に知らしめているような活動を展開しているように見えます。その、最も新しい成果が、この、メンデルスゾーンの知られざるオペラ「ボストンからの叔父」の蘇演です。最近何かと話題のモーツァルト同様、小さい頃から音楽の才能を発揮した早熟な(「ぼく、十(とお)からのおやぢ」)メンデルスゾーンが、これは14歳の時に作ったオペラということになります。当時の彼は、ベルリンの「ジンクアカデミー」で、有名なツェルターに作曲の指導を受けていたわけですが、この時期に3つの1幕もののオペラと、この3幕の作品を作っているのです。これらのオペラは、メンデルスゾーン家の内輪のコンサート(といっても、聴衆にはツェルターなどそうそうたるメンバーが名を連ねているのですが)で上演されただけで、その後は全く演奏されることはありませんでした。
この録音は、その、まさに180年ぶりの「再演」ということになります。ただ、この時期のドイツオペラに本来はあったはずの「セリフ」は一切カットされて、音楽のみが演奏されています。ブックレットの写真を見ると、ステージ上にオーケストラと合唱団、そして配役の扮装をしたソリストたちが並んでおり、舞台装置などは一切ない「コンサート形式」の上演であったことが分かります。トータルで1時間40分、まあ手頃な長さでしょう。
作品としての魅力は、なかなか捨てがたいものがあります。序曲の冒頭でホルンのコラールが聞こえてくるあたりは、まさに「ドイツオペラ」としての特色を出そうと意図したものなのかもしれません。幕の中で聴かれるバレエ音楽も、なかなか素敵なものです。特に、第2幕にある「大きなバレエ」では、木管楽器のソリスティックなアンサンブルが耳を楽しませてくれます。最近の「バッハ・コレギウム・シュトゥットガルト」でのフルートのトップはヘンリク・ヴィーゼ、彼の伸びやかで輝かしい音色はとても魅力的です。
ただ、基本的には作曲の勉強の成果、といった趣をぬぐい去ることは出来ません。そこにあるのは、オリジナリティよりは、少し前の作曲様式の模倣、この作品の中にモーツァルトの「後宮」や「魔笛」と非常によく似たテイストを感じたとしても、それは致し方のないことなのでしょう。時折見え隠れするロマンティックな翳りが、メンデルスゾーン自身のものとしてきちんとした形になるには、もう少し時間が必要になってくるのです。
このオペラを完成させた年のクリスマスに、メンデルスゾーンは後に100年ぶりの蘇演を行うことになるバッハの「マタイ受難曲」の楽譜をプレゼントされます。その時点では、彼はこのオペラが180年後に初めて再演されることになろうとは、夢にも思っていなかったことでしょう。
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by jurassic_oyaji | 2005-10-30 19:20 | オペラ | Comments(0)