おやぢの部屋2
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BACH/A Flauto Traverso
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Benedek Csalog(Fl tr)
Miklós Spányi(Cvcd, Fp)
RAMÉE/RAM 0404



このジャケット、ちょっと素敵ですね。というか、実はこの写真がいったい何なのか、すぐには分からないというのが粋です。足が3本ある鍵盤楽器のようにも見えますが、しかし、それにしてもこのメカニカルは姿はいったい・・・。これは、店頭でCDを手に取ってみても、分かりません。つまり、裏側を見てみても、やはり同じような写真があるだけなのです。そこで、好奇心にひかれてCDを購入、シールを破ってデジパックを期待しながら開いてみるのですが、やはりそこにも同じ角度の写真しかありません。さらにもう1度開いてみて、初めてこの物体を上から写した画像が目にはいる、という、込み入ったことを、このアルバムの制作者はやっていたのでした。このデザインも含めて、企画からプロデュースをやっているのが、バロック・ヴァイオリン奏者のライナー・アルント、彼のこだわりに満ちたアルバム作りは、ちょっと魅力的です。
ベネデク・チャログ(フルート)と、ミクローシュ・シュパーニ(キーボード)というハンガリーのアーティストを起用して作られたバッハのフルート・ソナタ集、まず、ここでは伴奏楽器としての鍵盤楽器の選択に、そのこだわりを大いに感じることが出来ることでしょう。バッハの時代の伴奏用の鍵盤楽器といえば、まずチェンバロがもっとも一般的なのでしょうが、ここでは現在のピアノの前身であるフォルテピアノと、ちょっと面白い発音メカニズムを持つクラヴィコードが使われています。クラヴィコードでは、鍵盤の先に付いた「タンジェント」と呼ばれる金属片が弦を持ち上げる(ちょうど「駒」のような働きになります)ことによって音が発せられます。ですから、鍵盤を叩く力がそのまま音の大きさに反映され、さらにその鍵盤を動かすことによって、ある種のビブラート(ベーブンクと呼ばれます)までかけることが出来るのです。これが、弦をはじいたり(チェンバロ)、叩いたり(フォルテピアノ)する時間がほんの一瞬で、それ以後はなんの操作を加えることの出来ない他の楽器との大きな違いになります。
そんなクラヴィコードの特質を最大限に生かした演奏を、前半のホ長調とホ短調のソナタで聴くことが出来ます。この楽器のオーソリティであるシュパーニは、チェンバロとは全く異なった次元の豊かな表情を見せてくれています。音量の変化が音色の違いとなり、これもまた表情豊かなチャログのトラヴェルソと相まって、ちょっと今まで味わったことのないカラフルなバッハの世界を体験することが出来ることでしょう。特にホ短調の最後の楽章など、アイディア満載の大きなスケールを感じることが出来ます。音色も、バロックを彩った雅な音、というよりは、まるで20世紀にシンセサイザーで作られたような肌触り。これはちょっと不思議なものです。元来クラヴィコードはとても小さな音しか出ないので、コンサートなどでその微妙なニュアンスを体験するのは難しいものですが、このような録音だとそれは難なく叶えられます。そのためか、常に同じピッチの共鳴音が聞こえるのは、まあ我慢することにしましょう。
後半は伴奏がフォルテピアノに変わります。この2曲はオブリガート・チェンバロのためのものですから、ちょっと弱々しい感じのクラヴィコードよりはこちらの方が適していると考えたのでしょう。これもまた、聴き慣れたチェンバロとも、そして現代のピアノとも全く異なる音色と表現力、ただ、この場合バランス的にトラヴェルソが弱く聞こえてしまうのがちょっと残念でした。
先ほどのジャケットの写真、実は18世紀後半に作られた羅針盤なのだそうです。そんな昔に作られて、現代でも十分通用するメカニズムという意味で、このアルバムを飾っていたのでしょうか。裸身盤だと良かったのに(なんだそれ)。
by jurassic_oyaji | 2005-11-04 19:40 | フルート | Comments(0)