おやぢの部屋2
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REICH/You Are(Variations)



Maya Beiser(Vc)
Grant Gershon/
Los Angeles Master Chorale
NONESUCH/7559-79891-2



スティーヴ・ライヒの最新作が届きました。2003年の「チェロ・カウンターポイント」と、2004年の「You Are(Variations)」です。2曲合わせても、収録時間が39分足らずというのは、最近のようにフォーマットの限界ギリギリまで詰め込もうというCDが多い中にあっては、ひときわ異彩を放っています。正直、70分、80分という長さは、聴き通すにはちょっと辛いと感じてしまうこともあるものですから、決して「長ければ良い」というものではないというのは、紛れもない真実です。音楽、特にクラシックの場合は、その価値は経済性と結びついた何かの単位に換算することなど、決して出来ないのですから。
ライヒの作品といえば、ひたすら決まったパターンを演奏し続けるという、どこか人間の情感に背いた要素が秘められているような印象を与えられるものであることは否定できません。逆に、そのような「クール」なものであったからこそ、それが魅力となって「ライヒを聴かない日はない」というほどのコアな支持者も得たのでしょう。今回のタイトル曲「You Are」では、基本的にはそのような行き方に変わりはないように見えます。決まったパルスに乗って、それぞれのパートだけを淡々と演奏している姿からは、感情の高まりといったエモーショナルなものは決して出てくるはずはないと、今までの彼の作品を数多く聴いてきた体験を持つものとしては当然思ってしまっていたはずです。しかし、意外なことに、ここからはかなり「濃い」情感をともなったメロディが聞こえてきたのです。もちろん、普通に「メロディ」といわれている流麗なものとはほど遠い形をしてはいますが、それは確かに音の高低の変化の中に確かな意味を見出すことの出来る知覚現象(なんという回りくどい表現)だったのです。全体で4つの部分に分かれていますが、それぞれが、殆どあの「交響曲」における「楽章」と変わらないほどの性格が与えられていた、というのも、今までのライヒの作品からはなかなか見つけにくかったものでした。スケルツォ的なシンコペーションが心地よい「第2楽章」、まるでラテン音楽のようなノリの「フィナーレ」、そして特筆すべきは「第3楽章」の殆どリリカルといって差し支えない美しさです。
そのような印象を与えられた要因に、「合唱」の参加が挙げられます。かなり初期の段階から、ライヒは人の声をアンサンブルの中に取り入れてきていました。ただ、それは殆ど楽器と同等の扱いであったため、「声」ではあっても決して「歌」として認識できるものではありませんでした。しかし、この作品の中で、ライヒはいつになく大規模な声楽を取り入れています。譜面づらは「voices」といういつもながらの表記ですが、ソプラノ3、アルト1、テナー2というパートは、それぞれ複数の歌手によって(ライナーには、ソプラノ、アルト、テナーとも6人のメンバーが記されています)しっかりとテキストにのっとったホモフォニックなフレーズが歌われれば、それは紛れもない「合唱」として認識されることになるのです。ただ、ここで演奏している人たちの、およそ「合唱」とはかけ離れた稚拙な歌い方からは、「合唱曲」としての完成度を期待するのは不可能です。この曲から、さらに極上のリリシズムを引き出すことを自ら放棄してしまったのは、作曲者が望んだことだったのでしょうか。
その点、1人の演奏者が、あらかじめ録音してある複数のパートと同時に演奏するという、いわば「ひとりア・カペラ」という発想の「カウンターポイント」シリーズの最新作「チェロ・カウンターポイント」では、なんの気負いもないチェリストの手から、ごく自然に「歌」が生まれるのを味わうことが出来ます。ここで聴かれるものは、ライヒの方法論が到達した「対位法」の一つの完成された姿。全部で8つの声部が絡み合い、そこから紡ぎ出される音楽は、確かに情感に訴えかけるものでした。3部構成となっている中間部で、「こんなに美しいライヒがあっていいものか」という感慨にふけることしばし。まさかこんな時代が来ようとは。
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by jurassic_oyaji | 2005-11-19 19:16 | 現代音楽 | Comments(0)