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RACHMANINOV/Liturgy of St. John Chrysostom
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Vladimir Minin/
The Moscow Chamber Choir
ALLEGRO/MOS 18732



ロシアのCD業界というのは、今はどういう事になっているのでしょう。床下に巣を作っているのでしょうか(それは「シロアリ」)。以前の「ソ連」時代は「MELODIYA」という国営企業が一手に引き受けていたものでしたが、それも「解放」後は、例えば一時BMGあたりが正式にディストリビューターとなって自由に流通する、というようなことも見られましたね。しかし、それ以前にもさまざまな「西側」のレーベルから、ここの音源は流通していましたから、今となってはまさに混沌の極みです。今回のラフマニノフも、元々は1988年に録音されたMELODIYAの音源でしたが、それが一度CDKとか言うレーベルから出されたものが、今回「Allegro」というアメリカのレーベルから「MOSCOW STUDIO ARCHIVES」というシリーズの一環としてリリースされた、という複雑な素性を持ったものなのです。
この「聖ヨハン・クリソストムの礼拝」については、以前こちらでイギリスの団体による演奏を紹介したことがあります。今回はミニン指揮のモスクワ室内合唱団という生粋のロシアの合唱団、全く異なったテイストが味わえると思った予感は、見事なまでに的中してしまいました。そもそも、以前のものはフルサイズのバージョンだったものが、今回は「リタニー」という、司祭と合唱の掛け合いの部分がカットされて、合唱による「聖歌」だけが録音されている、という曲の構成が違っている外見的な要素もあるのですが、そこから聞こえてきた音楽は、まるで別の曲かと見まごうほどの違いがあったのです。
そう感じた最大の要因は、やはり「声」の違いでしょう。このロシアの合唱団、「室内」という名称になっていますから、人数はそれほど多くはないのでしょうが、その深い響きには驚かせられます。もちろん、一番すごいのはベースのパート、特に「オクタヴィスト」という、普通のベースの1オクターブ下の音まで楽々出すことの出来る人達の存在で、とても人間技とは思えないほどの低い音が響き渡るさまは、圧巻です。「徹夜祷」やこの曲のようなラフマニノフの作品では、このパートがなんの無理もなく朗々と聞こえてくるだけで満ち足りた気分になれます。さらに、女声パートの一本芯の通った力強い響きも、ロシア独特のもの、こればかりは、先ほどのイギリスの団体の少年パートと比較すること自体が酷なこと、成人女声だったとしても、普通に訓練されたものでは、このような力強さを出すことは困難なはずです。
そのような「声」が素材になってくると、音楽の作り方自体が、アカデミックな西洋のものとは根本から変わってくることも、実感できるはずです。各パートの持つ存在感は、ハーモニーを作り上げる以前から、充分に主張がこめられたもの、4つのパートが「溶け合う」のではなく、それぞれが束になって迫ってきた結果、ハーモニーが「築きあげられる」といった様相を呈しています。そこからは、例えば純正調でハモるなどという些細なことに腐心していたのでは到底達することの出来ない、力強く豊かな音楽があります。
全体のちょうど真ん中ほどで聴かれる「Cherubic Hymn」では、その上に繊細さまでが加わった、とてもこの世のものとは思えないほどの満ち足りた世界が広がります。それは、努力を重ねて修練した結果得られるような種類のものではなく、言ってみればロシア人の「血」だけがなし得る、殆ど奇跡のようなものなのかもしれません。この合唱団が放つ強烈なメッセージは、音楽の「力」を信じているものには、決して見過ごすことは許されないものなのです。
by jurassic_oyaji | 2005-12-20 00:04 | 合唱 | Comments(0)