おやぢの部屋2
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GOLIJOV/Ayre




Dawn Upshaw(Sop)
The Andalusian Dogs
DG/00289 477 5414



WARNERというかNONESUCHのアーティストだと思っていたアップショーのアルバムが、DGから出ました。メインは、そのNONESUCH時代のアルバムでも取り上げていたアルゼンチンの作曲家、オスヴァルド・ゴリジョフが、2004年に彼女のために書いた「Ayre」という曲の世界初録音です。中世のスペイン語で「うた」とか「メロディ」を現すタイトルのこの作品には、実はゴリジョフがモデルとしたものがあります。それはルチアーノ・ベリオが1964年に、夫人のキャシー・バーベリアンのために作った「フォーク・ソングズ」、この、いわば「元ネタ」も、しっかりカップリングされているという配慮がうれしい、ニューアルバムです。
まず、そのベリオから聴いてみましょうか。タイトル通り、アメリカやフランスの「フォーク・ソング」をベリオが編曲したもの、なによりも1964年という、作られた時代がもろに作品の中に反映されているのが、ちょっと懐かしくなってしまうところです。歌自体はオリジナルを生かして素直に歌っているのに、伴奏でちょっとへそ曲がりな、というか、「現代作曲家」の意地のようなものが熱く迫ってくるのが、今となってはほほえましく感じられてしまうほどです。
この曲集、アメリカのフォーク・ミュージシャンのJ・J・ナイルズの曲で始まるのですが、2曲目のタイトルが「I Wonder as I Wonder」、なんと、これは先日ご紹介したばかりのキャロル集に入っていたものと同じタイトルではありませんか。歌詞も全く同じ。メロディは違いますが、いずれもしっとりとしたテイスト、リュッティ版の方が洗練されているでしょうか。「A la femminisca」という、シチリアの水夫の妻が「お天気が良くなりますように」と祈る歌では、シチリア風のだみ声で歌うという、バーベリアンばりの表現力の幅の広さを披露してくれているアップショーです。最後の「アゼルバイジャンのラブソング」で見られるリズミックなノリの良さからは、ベリオの本音のようなものも垣間見られることでしょう。
そして、最新のゴリジョフになると、もはや体裁などはかなぐり捨てた本音で勝負できる時代がやってきます。ここで扱われている素材は、ゴリジョフのルーツとも言うべき、スペイン系ユダヤ人と、アラブの世界です(ライナーには、アラビア文字の歌詞が載っています)。ここでは、伴奏のアンサンブルはしっかりとした必然性を持って、その素材の持つ世界観を表現しています。ビブラートたっぷりのクラリネットが奏でる哀愁のメロディ、「ハイパー・アコーディオン」などと言うわけの分からない楽器も登場しますし、「ラップ・トップ」とクレジットされているのは、言ってみればシンセサイザーのプログラミングでしょう。この二つの「楽器」がイントロを務める「私の愛」も聴きものです。
澄みきった声で歌われる、「母親は子供を丸焼きにして食べた」というタイトルからは想像できないような心に染みる美しい歌があるかと思えば、その次の「壁が土地を囲んでいる」では地声丸出しで殆どパンクのような激しさを見せてくれたり、まさに「虹色の声」でゴリジョフの世界を描ききったアップショー、バーベリアンとはまた違った意味で音楽の「ボーダー」を取り払ってくれました。
考えてみれば、バーベリアン、そしてベリオの時代に「ボーダー」だったものが、現在ではなんの意味も持たなくなり、新たな「ボーダー」が出現しています。それまでも取り払おうという「ボーダーレス」に挑んだゴリジョフとアップショー、その「ボーダー」の向こう側からのアプローチであるサラ・ブライトマンの「ハレム」と言うアルバムによく似た感触を醸し出しているのは、単なる偶然なのでしょうか。ジャケットのコンセプトも名前に似てますし(それは「ストリップショー」)。

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by jurassic_oyaji | 2005-12-28 20:53 | 現代音楽 | Comments(2)
Commented by dokichi at 2005-12-28 23:05 x
こんにちは。
この曲をBBC交響楽団の来年1月の定期で
取り上げるんですよ~
自分は、声楽曲は正直あまり好きじゃないけれど
楽しみにしてるので
思わずコメントを書いてしまいました
このCDを買うかといえば・・
ライブをネットで聴いて
いいと思ったら・・ですが(爆)
Commented by jurassic_oyaji at 2005-12-29 10:23
コメントありがとうございます。
すごいですね。BBCSOがゴリジョフだけで1晩のコンサートをやるなんて。
でも、この曲の編成はアンサンブルとソプラノですから(このCDと同じメンバーですね)オーケストラは出番がないのでしょうね。