デュークエイセス
東芝EMI/TOCT-11008/11デュークエイセスというコーラスグループ、昨年創立
50周年を迎えたそうです。
デューク(19)年しか続かないと思っていただけに、これは驚きです。同じ時期に結成された男声カルテットである「ダーク・ダックス」や「ボニー・ジャックス」が、現在では見る影もなく衰えてしまって、とてもコーラスの体をなしていないのとは異なり、このグループは今でもそのタイトなハーモニーの健在さを誇っています。
15年ほど前にはトップテナーの谷口さんが急死するという危機があったのですが、無事に新メンバーを迎えることが出来て、以前と変わらない精力的な活動を繰り広げているということです。もっとも、私にとっては前のメンバーの時代のデュークこそが、最高の存在でした。谷口さんとバリトンの谷さんという、非常によく似た声の2人が中心になって作り出された独特のハーモニーは、どんな時にも乱れることのない鉄壁の強固さを見せつけていたのです。極論すれば、それ以後、日本にはこれ以上のコーラスグループは出現していないのではないでしょうか。
今回、
50周年に合わせて、その頃の代表作である4枚組のシリーズが、何回目かの再発となりました。これは、
1966年から
1969年にかけてリリースされたもので、作詞家の永六輔と作曲家のいずみたくというチームがデュークエイセスのために日本全国
47都道府県にちなんだ歌を作るという壮大なプロジェクトの成果でした。最終的には1県で2曲以上作られたところもあり、全部で
53曲となるシリーズが完成したのです(アルバム未収録の曲もあります)。
この録音が行われたころの日本の音楽シーンは、さまざまな面で大きな変化を遂げた時期でした。このシリーズでも、第2集(
1967年
10月)と第3集(
1969年3月)の間には、マルチトラックを導入したのではないかと思われる、サウンドとしての劇的な変化が見られます。演奏というか、編曲の面でも、この頃には確かに新しい流れが始まっているような感触がはっきり分かるはず、以前はウッドベースだったものが、キレの良いエレキベースに変わっただけで、曲の姿が全く変わっているのに気づくことでしょう(このピックベースは、もしかしたら江藤勲さん?)。
この
53曲の中には、例えば「いい湯だな」とか「女ひとり」といった、今でも親しまれている「ヒット曲」も確かにあります。しかし、大半のものはまず普通の場所では聴かれることのない、忘れ去られた曲に違いありません。ご当地宮城県の歌は「こけしの唄」というものですが、「
こけし お前は 俺に似てる」というこの歌を知っている人は、今では誰もいないはずです。しかし、今回久しぶりに全曲を聴き直してみて、そんなポピュラリティとは無縁の、「作品」としての価値を持っている骨太な曲があったことにも気づかされました。それは沖縄の「ここはどこだ」(第2集)と、広島の「伝説の町」(第4集)という、戦争に対する思いをさりげなく扱ったものです。特に後者では「
みんな みんな 思い出すのだ」と、あの鋼のハーモニーに乗って伝えられるメッセージには、強い訴えかけが宿っていることを感じないわけにはいきません。「
大切なことを 忘れようとする人たち」という歌詞は、もしかしたら永六輔は未来へ向けて語りかけていたのかも知れません。いずみたくのおきまりの循環コードに乗った音楽は、それ自体では殆どなんの魅力もないものですが、この歌詞がデュークのハーモニーを伴った音となると、いいようにない深い味が出て来ることに気づかされます。
このアルバムは、言ってみれば「歌謡曲」というジャンルの作品、それが
30年以上経ってもオリジナルのアルバムと同じ形でリリースされているという事自体が、このプロジェクトの成功を物語っているのではないでしょうか。クラシックも含めて、レコード制作という場でこれほど良心的な仕事が行われたことは、この国では殆ど他に例を見ないはずです。