おやぢの部屋2
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BACH/Variations Goldberg





Erik Feller(Org)
ARION/ARN 68673



バッハの有名なクラヴィーア曲に付けられた「ゴルトベルク変奏曲」というタイトルは、言ってみればベートーヴェンの「運命」のように、後に付けられた俗称です。それぞれの変奏が「アイアン」とか「パター」だと(それは「ゴルフクラブ変奏曲」)。正式なタイトルは「クラヴィーア練習曲集:アリアと様々な変奏Klavierübung:Aria mit verschiedenen
Veränderungen
」という素っ気ないものです。ここで指定された楽器「クラヴィーア」というのは、現代では殆ど「ピアノ」と同義語になっていますが、本来は「鍵盤楽器」という意味、従って、バッハの時代には普通はチェンバロで演奏されました。もちろん、その他の鍵盤楽器、クラヴィコードや、あるいはその頃すでに作られていたフォルテピアノで演奏された機会もあったことでしょう。それから一歩進んで、同じ鍵盤楽器なのだから、オルガンで演奏しても良いじゃないか、という事で、録音されたのがこのCDです。元々の譜面は2段鍵盤のために書かれているものですから、それを2つの手鍵盤で演奏すれば、特に編曲などはしなくてもそのまま音になります。これは、ちょっと盲点をつかれた素晴らしいアイディアではないでしょうか。
という程度の軽い先入観で聴き始めたのですが、すぐさま、どうも状況はそんな単純なものではなかったことに気づかされることになります。「アリア」が、「Schwebunk」という、ビブラートのかかったストップで聞こえてきた時、それは紛れもないオルガン曲の響きを持っていたのです。ここで使われている楽器は、フライブルクの教会にある1735年にゴットフリート・ジルバーマンによって制作されたもの、もちろん、最近修復はされていますが、基本的な構造は変わっていませんから、「トラッカー・アクション」という、鍵盤からパイプを開閉させるまでのメカニックなシステムのノイズがかなり大きく聞こえます。そのノイズは、あたかも禁断の世界への入り口を開くパスワードであるかのように、私達をバッハの時代のオルガンの世界へと導いてくれたのです。バッハ自身がこの楽器を演奏したことはありませんが、そこにあったのはまさにバッハの時代の教会に於けるオルガンの響きそのもの。そう、雇い主の不眠症を解消するために作られたという穏やかなアリアは、オルガンで演奏されたことによって、まるで敬虔なコラールであるかのように聞こえてきたのです。
それに続く変奏には、ですから、オルガンならではの多彩な音色の変化を味わえる楽しみが待っています。まず、同じ変奏の中でも繰り返しで必ずストップを変えているのが素敵。第2変奏で出てくる「Vox Humana」というストップの鼻の詰まったような幾分ユーモラスな響きも、耳をひきます。第7変奏で現れる「トランペット」というリード管も、まるでフランス風のノエルのような軽快さを与えてくれます。第8変奏では「Vox Humana」と「Schwebunk」が一緒になって、ちょっと危うげなすすり泣きのような効果が出ています。次の第9変奏では、ペダルまで加えたフルオルガンによる壮麗な、まさに音の建造物といったスペクタクルサウンドが味わえますよ。かと思うと、第13変奏や第25変奏のような装飾的なメロディはまさにオルガンの独壇場。16変奏の「序曲」も、フルオルガンでチェンバロでは到底表現できない分厚い世界を見せてくれています。それと対照的な第21変奏のような静謐な世界。最後に「アリア」が再現される時にも、冒頭とは微妙に異なるレジスタリングで、楽しませてくれています。
まるで最初からオルガンのために作られたような顔を見せてくれた「ゴルトベルク」、ここでも、演奏される楽器を特定しなくても成り立つという、バッハの曲の持つ強固な普遍性が明らかになりました。
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by jurassic_oyaji | 2006-03-15 19:59 | オルガン | Comments(0)