おやぢの部屋2
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BACH/Matthäus Passion

C.Samuelis(Sop), B.Bartosz(Alt)
J.Dürmüller, P.Agnew(Ten)
E.Abele, K.Mertens(Bas)
Ton Koopman/
The Amsterdam Baroque Orchestra & Choir
CHALLENGE/CC 72232



バッハの「マタイ」は、普通はCD3枚でなければ収まりきらない長さを持っています。どんなに速いテンポで演奏しても2時間40分はかかるでしょうから、2枚に納めようとすると1枚あたり80分、曲の切れ目を考えると、これはちょっと難しい数字です。現に、コープマンの1992年に行われた同じ曲の録音では、演奏時間は2時間4159秒、もちろん3枚組でした。ところが、今回のコープマンの演奏は2時間34分7秒しかかかっていないのです。これでしたら楽々2枚に入ります。こんな速い演奏は他にはないだろうと思ったのですが、実は以前取り上げたロイシンク盤がやはり2枚組、しかも演奏時間は2時間3339秒、もっと速いのがありました。ロイシンクもコープマンもオランダの指揮者、そういう土壌がこの国にはあるのでしょうか。
そんな演奏時間にも現れているように、この「マタイ」は非常にサラサラ流れていくような印象を与えています。合唱が受け持つ情景描写の部分が、ことさらの思い入れもなくあっさり過ぎていくのを見ていると、コープマンはこの曲の中のドラマ性を、ことさら強調しないというスタンスで演奏しているのでは、という思いが強まります。例えば、ピラトがキリストとバラバのどちらを十字架につけるかを民衆に問う場面での民衆の答え、「バラバを!」という減七の和音が、いともあっさり歌われたのには、正直拍子抜けしてしまいました。そこは、必要以上の感情は込めず、あくまで音楽として聴いてもらいたいというコープマンのピュアな心が、もっとも象徴的に現れた部分だったのかも知れません。もちろん、コラールなども、くどいほどの思い入れをその中に込める指揮者の多い中、これだけあっさり歌われると逆の意味での感動を呼ぶことでしょう。
そんな流れの中で、テノールのアグニューだけは、果敢に主張のこもった緊張感のあるアリアを披露してくれています。第二部の「Gedult!」など、その真に迫った表現は、まわりが醒めている分、非常に際立って聞こえてきます。反対に、そのサラッとした流れに埋没してしまうだけでなく、さらにテンションを下げることに貢献しているのが、アルトのバルトシュです。アルトのアリアといえば、この曲のまさに「聴きどころ」といっても構わない珠玉の名曲ばかり、それがことごとく暗く、なんのファンタジーも感じられない無惨な姿に変わってしまっているのは、聴いていて辛いものがあります。特に、第2部の冒頭を飾る「Ach! nun ist mein Jesu hin!」は、ヴァイオリンのオブリガートも平板そのもの、バルトシュの稚拙な歌と相まって、言いようのない失望感を味わわされます。
トラヴェルソの名手、ハーツェルツェットにも、何か勢いが感じられないのが残念です。新全集(ベーレンライター版)での6番「Buss und Reu」のオブリガートでは、完全に2番のモーネンに喰われてしまっていますし、49番「Aus Liebe」の長大なオブリガートも、装飾に頼った、力のないものでした。
ちなみに、このCDと同じ内容のものが、DVDでもリリースされています。こういうのも最近の新しい売り方なのでしょう。見ないようにと思っても、きっとあのコープマンのやんちゃ坊主のような顔が飛び込んでくるはず、これを見ながら聴いたら、あるいは音楽の印象も異なって感じられるのかも知れませんね。
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by jurassic_oyaji | 2006-03-31 19:49 | 合唱 | Comments(0)