おやぢの部屋2
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髙田三郎/心の四季 多田武彦/雪明りの路



髙田三郎、福永陽一郎、畑中良輔
大久保混声合唱団、日本アカデミー合唱団
慶應義塾ワグネル・ソサイエティー男声合唱団
関西学院グリークラブ
日本伝統文化振興財団/VZCC 62/63



半年ほど前に、今まで「ビクター」から出ていた日本人の合唱作品のカタログが、いきなり1枚1500円という廉価でリイシューされたことがありました。なんでも、新たに財団が設立されて、その活動の一環としてその様な過去の録音を初出レーベルを超えて発売することになったのだそうなのです。
今から数十年前には、この「ビクター」と、そしてもう一つ「東芝」というレコード会社が、精力的にこのような作品を録音し、発売していたという、今から思えば夢のようなシーンがありました。今回は「ベストカップリングシリーズ」と銘打って、その「東芝」のカタログを存分に使って、同じ曲を別の演奏家が録音したものとカップリングする、という、素晴らしいことをやってくれました。録音データや初出のライナーなども極力再現したという、仕事自体は非常に良心的なものです。
その中で、最近耳にする機会が多かった「心の四季」と、「雪明りの路」を聴いてみましょう。
まず、作曲者の髙田三郎(「たかだ」ではなく「たかた」、しかも「高」の字は傘の下がつながった「髙」だというのは、知ってました?たかが名前ですが)自身が指揮をしている「心の四季」(ビクター)です。これはもちろん、作曲者による解釈を味わう上では、最高のものといえるでしょう。合唱も、先頃なくなった辻正行さんが下振りをした名門、大久保混声合唱団、この曲のスタンダードとして、永遠の命を持つものです。ただ、おそらく「自演」であるためにある種の冒険が許されない分、鑑賞の対象としては物足りなさが残るのは事実です。
一方の東芝版、福永陽一郎による演奏は、とことん指揮者の趣味が生かされた仕上がりになっていて、この曲からしっかりとしたメッセージを受け取るためには格好なものとなっています。不自然なほど遅いテンポから、一つ一つの言葉をかみしめるようにその思いの丈を伝えられれば、そこにもしかしたらこの曲が求めている以上の世界が広がっていようとも、黙って受け入れる他はありません。3曲目の「流れ」で、最後に女声にテーマが戻ってくる部分での、全く思いがけないテンポ設定、これこそが演奏家が独自の感性で繰り広げる「表現」の極地でしょう。ここでの合唱団「日本アカデミー合唱団」というのは、この録音のためだけに結成された(母体となった団体はありますが)合唱団、まさに福永陽一郎の音楽を実践するために生まれてきたようなものなのでしょう。ちなみに、これが録音されたのが1970年なのですが、今の楽譜にはきちんと書き込まれていて、1981年に録音されたビクター版では守られている「無声音」の指示が、全く無視されています。おそらく、最初の楽譜にはなかった指示を、後に作曲者が加えたのでしょうね。そんな「歴史」までも、ここから聴き取ることが出来ます。
「雪明りの路」でも、ビクター版、畑中良輔の端正な、しっとりとした味わいのある演奏を聴き慣れた耳には、東芝版の福永陽一郎の恣意的な表現がとても新鮮に味わえます。特に5曲目の「夜まわり」での粘着質の解釈には、圧倒されてしまいます。データが完備しているので、これが吉田保さんによる録音だということまで知ることが出来ます。かつて「Jポップ」で数々の名盤を生み出した名エンジニア、こんな仕事もしていたのですね。
この企画、このような形で並べて聴くことによって、初出の時に別々に聴いた時には感じられなかったような発見が数多くありました。そして、ある種の懐かしさと、虚無感も。それは、過去にこれだけのものを作り得ていたレコード会社には、今となってはとてもそんな挑戦は望むべくもない、という絶望感がもたらす虚無感なのです。
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by jurassic_oyaji | 2006-04-03 20:11 | 合唱 | Comments(2)
Commented by mottenin at 2006-04-04 22:39
髙田の「髙」もそうですが、印刷しない前提なので、異字体の表記はかなりいい加減になっております(汗)。
エンジニアが吉田保さんでしたか。名エンジニアはジャンルを超えて名を残しますね。あとは朝比奈/ジャンジャン盤の吉野金次さんとか。
Commented by jurassic_oyaji at 2006-04-05 00:12
そう、吉野さん。
あと、外国では、ゴールウェイのエンジニア、マイク・ロスがマンハッタン・トランスファーでも仕事をしていて、驚いたことがあります。