John Rutter/
The Cambridge Singers
The City of London Sinfonia
UCJ/476 3068昨年はイギリスの作曲家ジョン・ラッターが
60歳の誕生日を迎えたという事で、イギリスではラジオの番組が作られたり音楽雑誌で特集を組まれたりと、何かと注目を集めていたようです。日本では合唱関係者の間でこそ知られてはいますが、一般的な知名度はそんなにあるとは思えないラッター、さすが本国ではかなりの人気を誇っているようですね。その雑誌でも紹介されていたこのアルバムもそんな「還暦記念」のアイテムだったのでしょう、もちろんイギリスでは昨年の内にリリースされていましたが、日本ではやっとこの頃店頭に出回るようになりました。
「
UCJ」と言うのはちょっと見慣れないレーベルです。どこかの銀行が出資して立ち上げたものなのでしょうか(それは「
UFJ」)。そうではなく、これは「
Universal Classics & Jazz」の略語、今までも
UNIVERSALの中のクラシックやジャズのレーベルを総称してその様な言い方をしていたのですが、それをレーベル名に「格上げ」したという事なのでしょうか。いずれにしても、今までは
COLLEGIUMというマイナー・レーベルでしか入手できなかったラッターの自作自演が、このようなメジャーなところからリリースされるのは、ちょっとした事件ではないでしょうか。まさに「メジャー・デビュー」といったところでしょうか。先ほどの雑誌でも「ラッターの音楽が、
UNIVERSALから発売」と、大いに期待を持たせる書き方をしていましたし。もちろん、これはシャルロット・チャーチやキャサリン・ジェンキンスが彼のナンバーを取り上げてヒットを放った、というのとは全く別の次元の出来事です。
と、このアルバムのことを知った時は思いました。そして、実際に現物を手にして、今まで録音されていた曲だけではなく、「世界初録音」のものまであると知って、「やった」と思った程です。ところが、封を切って中のブックレットを開けてみた途端、その様な喜びは失望へと変わりました。ここに収録されているものは、「世界初録音」という「
The Gift of Music」を除いて、すべて今まで
COLLEGIUMから出ていた音源を集めただけのもの、つまり、これは単なるコンピレーション・アルバムだったのです。言ってみれば、
BRILLIANTや
MEMBRANのようなもの、ただ、あちらはライセンス先のレーベルがジャケットにきちんと表示されていますが、この場合はジャケットを見ただけでは
COLLEGIUMの音源が使われている事は全く分かりません。
これは、私の勘違いだったのでしょうか。いいえ、例えばこちらの
通販サイトに掲載されているインフォメーション(ほぼ同じものが他の場所でも見られますから、これは輸入業者が書いたものなのでしょう)には、しっかり「今回は、ユニバーサル
UKへのレコーディングです」と明記されていますよ。それだけではなく、販売店の店頭でも「新録音」というコメントが、堂々と製品の前に掲げられているのです。これを読めば、誰でも、今回のアルバムは今までの
COLLEGIUMのものとは別に、新たに
UNIVERSALのために録音を行ったものだ、と思うはずではないでしょうか。もちろん、そうではない事はブックレットを読めば分かる事なのですから、これは輸入業者の単なる事実誤認(しかし、扱っている商品に対する知識の欠如がこれほどのものとは、驚くほかはありません)なのですが、結果的には殆ど「詐欺」といっても差し支えない程の社会的な過ちを犯した事にはなりませんか?
それは、日本サイドの問題、しかし、ジャケットにコンピレーションとだけ書いてコレギウムのコの字も(もちろん、英語で、ですが)入れなかった
UKの
UCJの姿勢も、決して公正なものとは言えません。このアルバムのために「特別に(ラッター)」作ったとされる新曲にしても、権利は
UNIVERSALではなく
COLLEGIUMに属しているのですから。今までの仕事を
UNIVERSALという大舞台で披露できる喜びを無邪気に綴ったラッター自身によるライナーノーツの精神を生かすことが出来なかったこのメジャー・レーベルへの信頼は、地に落ちました。「おお、わりい、わりい
O Waly Waly=Track16」と謝って済むものではありません。