おやぢの部屋2
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Immortal Nystedt
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Øystein Fevang/
Ensemble 96
Bærum Vokalensemble
2L/2L29SACD(hybrid SACD)



2L」という聞き慣れないレーベル、ノルウェーのレコーディング・エンジニアのモーテン・リンドベリという人が2001年に創立したものです。クラシックから現代音楽、ジャズ、そしてフォーク・ミュージックと、彼の趣味が反映されたアイテムが今までに40種類近くリリースされているマイナー・レーベルです。言ってみれば、ノルウェー版ECMでしょうか。このアルバムでも、プロデュースとマスタリング、そしてジャケットデザインまで、このリンドベリさんが一人で手がけているという、まさに手作りの肌触りです。特に彼はSACDのサラウンドにこだわっているようで、「モノラルは白黒写真、ステレオはポラロイドでしかないが、サラウンドでは、本物のみずみずしさが味わえる」とまで言い切っていますから、このフォーマットに寄せる信頼は相当なものなのでしょう。事実、このアルバムでも、リアチャンネルに教会の残響をふんだんに取り入れた音場設定は確かに「みずみずしさ」にあふれる生々しいものには違いありません。ただ、2チャンネルでしか再生できない時には、その残響が過剰に元の音にかぶってしまって、明晰さが失われてしまうという、最近のハイブリッドSACDによく見られる欠点が露呈はされてしまいますが。
「イモータル・バッハImmortal Bach」という名曲で合唱界ではとみに有名なノルウェーの重鎮作曲家ニシュテット(と読むのでしょうか)は、このアルバムが録音された時には89歳、「これからも長生きして良い曲をたくさん作って下さい」という思いを込めたのでしょうか、「イモータル・ニシュテット」というちょっと粋なタイトルが素敵です。穀物が好きなんですね(それは「芋を食べるニシュテット」)。「IB」こそ1987年に作られた「古典」ですが、その他の曲は1999年から2003年という、まさに出来たばかりの曲が揃っているところからも、この作曲家に対するリスペクトが窺えます。
IB」を聴き慣れた耳には、これらの曲はえらく「丸い」印象を受けてしまいます。晩年になれば、かつての「尖った」側面はひとまず仕舞い込んで、オーソドックスなものを目指す、というのは誰しもたどる道なのかも知れません。しかし、その結果こんな温かい作品がたくさん生まれるのであればそれも幸福なことなのでしょう。「アンサンブル96」という、オスロ・フィルの専属の合唱団が1996年に解散させられた時に、そのメンバーによって結成されたグループは、高度に均質化された響きを持ちながらも、そんな温かさをふんだんに振りまいて包み込むような大きな音楽を味わわせてくれています。その女声メンバーも何人か参加しているもう一つの女声合唱団による「Nytt re livet(新しきは人生)」という曲が、特に充実した響きを堪能させてくれるものでした。
その様な滑らかな曲を聴いたあとに件の「IB」を味わうことにより、この曲の本質が理解できることになります。それは、バッハのコラールをいかにクラスターで解体しても、最後には純粋な3和音に終結するという、実に分かりやすいコンセプトだったのです。それをはっきり示してくれたこの演奏に比べると、ARSでは「壊れた」ままで終わってしまっていることが、そしてHMでは、その「壊し方」があまりにも過激すぎるということが、自ずと分かってくることでしょう。
by jurassic_oyaji | 2006-06-07 19:50 | 合唱 | Comments(0)