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GAUBERT/Complete Works for Flute 3
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Fenwick Smith(Fl)
Sally Pinkas(Pf)
NAXOS/8.557307



NAXOSというレーベル、出来た当初は名曲を「安く」提供するだけの文字通りのバジェット・レーベルだったのですが、いつの間にかある特定の作曲家の作品を全て録音するという、極めて特異なレーベルに変身していたのですね。つい最近も、グラズノフのちょっとマイナーな曲を探していたら、見事にここのカタログの中に見つかって大喜びをしたところ、例の日本人作曲家のアンソロジーも好調に進行中のことですし、このレーベルからは目が離せません。
2003年に第1集がリリースされたフェンウィック・スミスによるゴーベールのフルート曲全集も、たった3年でめでたく完成、第3集が手元に届きました。ソナタが中心の第2集は、そなたに印象に残るような演奏ではなかったためにレビューは書きませんでしたが、今回のものには「世界初録音」となるトランスクリプションが入っているので、初物好きとしては何をおいても触れなければ。
ご存じのように、ゴーベールといえばフルートの教育者としての面が特に重要に思われています。そのために、音階やアルペジオの練習を毎日行うための日課練習を編んだり、教授を務めていたパリ音楽院の卒業試験のための課題曲(この中に収められている「ノクチュルヌとアレグロ・スケルツァンド」)を作ったりしたわけです。そして、その様な、ある意味「指の練習」だけに終わらない確かな音楽性を身につけるための教材として彼が注目したのが、古今の名曲でした。それは、よく知られたシンプルなメロディをピアノ伴奏とフルートソロの形に編曲(といっても、殆ど「素」のままですが)する事によって、旋律の歌い方を学び、表現する力をつけさせようというものです(これは、後に弟子のマルセル・モイーズにも受け継がれ、「Tone Development Through Interpretation」という練習曲に結実することになります)。
その様な趣旨で、ゴーベールが、ルイ・フルーリーやフェルナン・カラージェとともに編纂した曲集「Les Classiques de la flute」は、1927年にリュデュック社から出版されました。ここでゴーベールが担当した分は30曲以上に及びますが、そのうちの12曲だけが、ここでは紹介されています(全集じゃないじゃん!)。そして、その中には、グルックの「精霊の踊り」のように、すでにフルーティストのレパートリーとして多くの録音が出ているものも含まれており、ちょっとびっくりさせられてしまいます。ということは、これらの編曲はもはや「ゴーベール編曲」というプロファイルを離れて、殆ど「パブリック・ドメイン」といった様相を呈しているのでしょう(事実、「著作隣接権」はすでに切れていますし)。つまり、ここでの「世界初録音」というのは、この曲の本来の編曲者をきちんとクレジットした、というところに意味があるということになりますね。同じように、今まではゴールウェイが最初に編曲したのだと思っていたシューマンの「トロイメライ」も、実は「元ネタ」があったのだということに、初めて気づかされることになるのです。
その結果、演奏者のスミスは、殆ど「名曲集」の域を出ないこれらの編曲を、そんな文脈の中で再構築するという困難な仕事に立ち向かうことになりました。しかし、この演奏からは、まさにゴーベールが目指した「表現する力」の成果が見事に達成されたものを感じることが出来るはずです。「模範演奏」として聴くにはあまりにも豊かすぎるエモーションが、私達の心にストレートに届くことでしょう。
by jurassic_oyaji | 2006-06-09 17:45 | フルート | Comments(1)
Commented by KawazuKiyoshi at 2006-06-13 14:45
初めまして。
フルーティストって調べたらこのサイトに行き着きました。
この頃の新曲は音楽かなーと想わせるものが多いので、
敢えて古典的な曲を作っています。好かったら聴いてみてください。
但し私は音楽家ではありません。