おやぢの部屋2
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MOZART/Mass in C Minor

Nancy Armstrong, Dominique Labelle(Sop)
Jeffrey Thomas(Ten), Richard Morrison(Bas)
Andrew Parrott/
Boston Early Music Festival Orchestra
Handel & Haydn Society Chorus
DENON/COCQ-84143



1990年に録音され、1992年にリリースされたアイテムが、「モーツァルト祭」に便乗してお安くなって出直りました。なかなか貴重なモーンダー版による「ハ短調ミサ」、おそらくこれは、1988年のホグウッド盤に次ぐ、この版の2番目の録音だったのではないでしょうか。それ以後は、私の知る限り2004年のマクリーシュまで、これを取り上げる人はいなかったはずです。
アンドルー・パロットという人は、かつて1980年代にはEMIREFLEXEシリーズなどで「タヴァナー・プレイヤーズ」などを率いて活発な録音を行い、幅広い活躍をしていた指揮者でした。学究的なアプローチとみずみずしい演奏という相反するはずの側面をともに満たした、数々のユニークな成果を私達に提示してくれていたはずです。しかし、最近イギリスからアメリカに拠点を移してからは、ぱろっとその消息が忘れられているように見えるのは、ただの錯覚なのでしょうか。今では、ガーディナー、ホグウッド、ノリントンといった、かつて同じフィールドでしのぎを削った仲間たちに比べると、ちょっと目立たない存在になってしまっていることは否定できません。
この録音も、アメリカのアーティストを率いてのものです。もちろんオリジナル楽器の団体ではあるのですが、何気なく聴いていたのではモダン楽器のオーケストラではないかと思えるほどの屈託のない明るさが、ちょっと気になってしまいます。確かにピッチは低く、フルートなどが入ってくると紛れもない「オリジナル」ではあるのですが、あまりにふくよかすぎる弦楽器の響きに違和感を抱く人は多いのではないでしょうか。響きと同時に表現も、「オリジナルって、もっとストイックなものじゃなかったの?」という感想を持つには十分なものがありましたし。
ただ、かなり高レベルの合唱は、安心して聴いていられます。そんな大人数ではないのですが、二重合唱になってパートの人数が少ない時でも、しっかり個々の声部の音が確保されているのは、さすがです。そして、この未完の作品のテキストを補うために、単旋律の聖歌を挿入しているという措置も、いかにもパロットらしいやり方です。
ところで、この曲の「Sanctus」では、トゥッティで3回「Sanctus」と繰り返された後に続く「Dominus Deus Sabaoth」という歌詞の部分は、きちんと自筆稿に基づく校訂を行った1985年の「エーダー版(ベーレンライター)」以降の楽譜(というより、そもそも1882年のブライトコプフ全集版でさえ)では、最初の1小節はヴァイオリンが「ジャンジャン、ジャララ」というパターンを演奏するだけで合唱は休み、次の小節から歌い出すという形になっています。モーンダー版の現物は手元にないので正確なことは言えませんが、他の演奏家はこの小節に合唱を入れていないので、おそらくエーダー版を踏襲しているはずです。しかし、なんとここで、パロットは合唱を歌わせているではありませんか。確かに、これは最初の小節から合唱が入るというシュミット版(録音では「シュミット/ガーディナー版」と「シュミット/ヴァカレツィ・ヴァド版」しか聴くことは出来ません。パウムガルトナーの1958年の録音はランドン版+K262、一部でシュミット版と伝えられているのは「ガセネタ」です)やランドン版(オイレンブルクのスコアには小さな音符で表記されているので「オプション」という意志が感じられますが、ペータースのボーカルスコアではしっかり普通の音符で印刷されています)の演奏になじんだ人にはかなり違和感のあるものです。実際、「ベーレンライター版」と謳っているにもかかわらずこの部分を指揮者の裁量で歌わせているクリヴィヌのような人もいることですし。しかし、あえて厳格な(はずの)モーンダー版を選んだあのパロットがこんなことをやっている姿には、かなり意外な面を見てしまったという感慨がわいてしまいます。


エーダー版「Sanctus」のスコア、7小節目から。


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by jurassic_oyaji | 2006-06-22 20:47 | 合唱 | Comments(0)