おやぢの部屋2
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CAGE/Sonatas & Interludes for Prepared Piano





John Tilbury(Pre. Pf)
EXPLORE/EXP0004



前にこのレーベルのクセナキスをご紹介した時に、「オリジナルのジャケットがあれば」と苦言を呈したせいではないでしょうが(ありえません)、このブックレットにはこんな素敵な画像が掲載されていました。

これは、この曲の楽譜の最初に載っている「Table of Preparations」、つまり、プリペアのためのインストラクションです。もちろん、これはケージ自身の手書きによるもの、この可愛らしい特徴的な書体は、彼の音楽とともに多くのファンを持っています。そんなファンの期待に応えて「ケージ・フォント」などというものを作って販売している人もいるそうですね。ちょっと小さくて分かりづらいのですが、表の上にある文字は左から「TONE」、「MATERIAL」、「STRINGS LEFT TO RIGHT」、「DISTANCE FROM DAMPER(INCHES)」、指定された音に相当する弦に何を挟むか、それは3本(低音では2本)あるピアノ線のどの間で、ダンパーから何インチの場所か、ということを、克明に指示したものなのです。一つの弦の何ヶ所にも「プリペア」が指定されていることもありますね。ですから、これに従って「プリペア」を行えば、誰でもケージがイメージした音が出せるということになります。と、あのケージにしては何とも厳密な指示を行ったものだな、と思わせられるかもしれませんが、実は「MATERIAL」にしても「ゴム」とか「ネジ」と書いてあるだけで、どんな大きさや長さなのかまでは指定はされてはいません。そもそも「DISTANCE FROM DAMPER(INCHES)」と言ったところで、ピアノのサイズが違えば弦の長さに対しての相対的な位置も変わってしまうのですから、何の意味も持たなくなってくるはずではないのでしょうか。ですから、この表からうかがえるものは、いかにも大層なことを指定しているようで、実は「適当」なことしか言っていないという、まさに遊び心満載のケージの素顔そのものだったのです(もう一つ言えば、2オクターブ目は「15度」のはずです)。
もちろんEXPLOREはリイシュー専門のレーベルですから、これも1974年にDECCAによって録音されたものの復刻です。しかし、その音の良さにはびっくりさせられます。かなり静かな部分でボリュームを上げてみても、アナログ録音特有のヒスノイズなどは全く聞こえませんし、普通はそのヒスノイズに隠れて聞こえてこないバックグラウンドノイズが聞こえるという、SNの良さです。かなりオンマイクですが、おそらく教会のようなところで録音されたのでしょう、ほのかに漂う残響が非常に美しく尾を引くのが分かります。そして、先ほどの「指示」がそれほど厳密ではなかったことがよく分かるのが、10曲目の「Second Interlude」です。後半のオスティナートの中に使われているある音が、まるでリング・モジュレーターで変調したような(と言っても分からないでしょうが、ピンク・フロイドが「エコーズ」という曲のイントロで使っていた音です)とても「宇宙的」な音が聞こえてきたのには、本当に驚いてしまいました。
そこで取り出したのが、高橋悠治の録音です。同じ箇所を聴いてみると、それは何の変哲もない普通の「ネジ」かなんかの音でした。ティルバリーと同じ頃、1975年に録音されたこの演奏は、もう繰り返し何度も聴いたものですが、こうして別の演奏を聴いた上で改めて聴き直してみると、そんな分かりやすい「プリペア」の違い以上に、演奏者の目指していたものの違いがはっきり見えてくるのは、面白いものです。高橋は鋭角的なタッチで、あくまで厳しくこの曲に対峙しているように見えます。それに対してティルバリーの演奏には、もう少しアバウトな雰囲気が漂っているように思えて仕方がありませんでした。音を慈しむという点では、はるかに高いポイントが感じられるこの演奏、こんなレアな曲目でも選択肢が増えたことに、幸福感は隠せません。
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by jurassic_oyaji | 2006-08-01 20:07 | 現代音楽 | Comments(0)