おやぢの部屋2
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MOZART/Piano Sonatas Vol.1




Robert Levin(Fp)
DHM/82876 84236 2
(輸入盤)
BMG
ジャパン/BVCD-38168/69(国内盤)


ロバート・レヴィンというと、どうしても、モーツァルトの研究で有名なあの音楽学者としての姿がイメージとして迫ってきてしまいます。古くは、「偽作」とされている管楽器のための協奏交響曲(K297B)を、コンピュータを用いて復元したという仕事がちょっと話題になりましたし(現在では、この版を用いて演奏する人はまず見かけませんが)、有名な所では「レクイエム」の「レヴィン版」が、ほとんどジュスマイヤー版に次ぐスタンダードとして認知されています。最近では「ハ短調大ミサ」をフル・ミサの形に復元したものも発表されていますね。
もちろん、レヴィンといえばオリジナル楽器の世界で、鍵盤楽器奏者として大活躍している姿の方が、世に認められているもののはずです。決して医療や介護の世界で認められているものではありません(それは「シビン」)。バッハの協奏曲(HÄNSSLER)、ベートーヴェンの協奏曲(ARCHIV)、そしてモーツァルトの協奏曲(OISEAU LYRE)を、オリジナル楽器で演奏した録音は、それぞれ高い評価を得たものばかりです。
そんなレヴィンが、今回モーツァルトのピアノソナタの録音に着手しました。もちろん、使っている楽器はモーツァルト自身が愛用したというヨハン・アンドレアス・シュタインのフォルテピアノのコピーです。
このCDのパッケージには、通常のCDの他に、ボーナスDVDが入っています。それは、この録音が行われたマサチューセッツ州ウースターにある「メカニクス・ホール」という、非常に美しい残響を持つホールでの録音セッションの合間に、レヴィン自身が楽器のこと、作曲者のこと、そして作品のことを語ったという極めて興味深いものです。特に、彼が演奏しているフォルテピアノのことを語る時には、異常なほどの熱気が伴っているのが良く分かります。そこでは「現代」の楽器、D型スタインウェイを横に置いて、その構造、音の違いを分からせてくれているのです。それをもっと徹底させるために、アクションを丸ごと抜き出して、その二つを並べて見せてくれたりしています。そこまでやられては、この楽器がいかに現代のものとは異なっているかが、はっきり理解できることでしょう。そんなことを情熱たっぷりに語る彼の姿からは「学者」というよりは、モーツァルトが好きで好きでたまらない熱狂的なファン、といった面持ちが感じられてしまいます。彼の演奏、そして、楽譜の校訂や復元は、まさにモーツァルトに対する「愛」の証、そんな思いがヒシヒシと伝わってきます。
ここで演奏されているのは、K279,280,281(ちなみに、輸入盤には、「K6」の表記は全く見当たりません。それが世界の潮流なのでしょうか)という、いわゆる「1、2、3番」のソナタです。どの曲もとても生き生きとした息吹が感じられるものに仕上がっています。それは、型にはまった演奏ではなく、楽譜には現れていないようなちょっとした「タメ」とかルバートを施したことによるのはもちろんですが、何と言っても大きな要因はオリジナリティあふれる装飾です。どの曲にも前半と後半をそれぞれ繰り返して演奏するという指示がありますが(K281の最後だけが、ちょっと違います)、その繰り返しの時に、彼はとても表情豊かな装飾を施してくれているのです。両端の早い楽章ではそれほど目立ちませんが、それでもK280の後半、再現部が始まる前にアインガンクが入った時には、ちょっとゾクッとなってしまいましたよ。これだけで、音楽がとても立体的に感じられるようになるのですからね。その装飾が最大限に発揮されているのが、もちろん真ん中のゆっくりした楽章です。ほんと、1回目のメロディが2回目ではどんな風に変わって弾かれるのかという期待に胸をふくらませながら聴くというのは、とても幸福な体験でした。思いがけないところで、考えてもみなかったような素敵な装飾に出会えた時など、思わず「参りました」という気になってしまいます。中でも同じK280が聴きものです。フェルマータは、繰り返しの時にはアインガンクがはいるという「お約束」があるのですが、ここでの最後のフェルマータなどは、ほとんど「カデンツァ」といっても差し支えないほどの壮大なものでした。
DVDの中でも述べられていましたが、この楽器は現代のような均質な音色ではなく、音域によってそれぞれ特徴的な音がします。おそらくモーツァルト自身もそれを考慮に入れて曲を作ったはずだとレヴィンは語っています。そんなシュタイン・フォルテピアノの低音部は、「ビョン・ビョン」という、とっても「現代的」な共鳴がするのが特徴です。これを聴いて、かつてのR&Bシーンでの花形キーボード、あのスティービー・ワンダーが「迷信」の中で使っていた「クラヴィネット」(言ってみれば、エレキ・クラヴィコード)の音を連想してしまいました。この音だったら、踊れるかも。
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by jurassic_oyaji | 2006-08-21 20:07 | ピアノ | Comments(0)